コラム
Columnまちと作品と劇場
私の活動には大きく3つのカテゴリーがあります。
1作品を創る
2劇場を創る
3まちをつくる
私には、演劇作品をつくり、THEATRE E9 KYOTOという劇場を創設・運営し、劇場が所在する京都市南区東九条の地域活動やまちづくりにも参加している日常があります。
劇場をこの地域に開設したのは2019年6月でした。2015年から2017年にかけて京都市内で5つの小劇場が閉館する事態を迎えました。私たちはこれを一つの社会課題として捉え、地元或いは全国の市民や企業からの支援を募り古い倉庫をリノベーションして、開設した民間の劇場です。演劇、ダンスなどの舞台芸術を中心に、時に美術展覧会や音楽会などもプログラムしています。劇場の他には、小さなカフェと、劇場の2階には、ビジネスパーソンが集うコワーキングスペースが併設されています。コワーキングスペースとカフェは、別事業者が運営をしています。アーティスト、観客、ビジネスパーソン、地域市民が日常的に出入りするあまり事例のない複合施設となっています。
©金サジ Sajiki kim
この東九条という地域は、1910年の日韓併合以来、朝鮮半島から渡航してきた定住者、所謂、在日韓国・朝鮮人の方々の多く住まわれる地域です。1945年の日本敗戦の後は、東南アジアなど別の国や地域からの外国人も定住し、多様な背景をもった方々が住まわれています。住環境やインフラが現在の形で整うのは90年代を待たねばならず、2000年代以降は、京都駅の直近という利便性にも関わらず、急速かつ局所的な過疎化が進み、現在は大小10ほど、面積にしておよそ2万平米の市有地が空き地として残されています。2017年に京都市は「京都駅東南部エリア活性化方針」という同地域のまちづくりの指針を策定し、「芸術」と「若者」をキーワードとした事業者の誘致をはじめました。2021年には、京都駅に最も近い市有地に、年間100万人ともいわれる動員を予定するチームラボのミュージアムが作られる事が発表される年ともなりました。町が大きく変化を迎えようとする、その一つの具体的なイメージの浮かび上がる年になったともいえます。この大型の施設の誘致を可能にしたのは、住居地域から近隣商業地域への都市計画の変更があったためです。また、この条例の変更の一つの事由に、私たちの劇場の開設も挙げられています。私たちの取り組みと町の方向性とそれに伴う具体的な内容が示されたというものです。「共に生きていく」とは何かを考え、実践してきた町が、今後どのような未来を迎えるのか、より深く考える年となりました。
2021年6月上演「フリー/アナウンサー」について
“Free/Announcer” ©金サジ Sajiki kim
本作は、コワーキングスペースの会員でもあり、近年、東九条地域に移住してきたフリーアナウンサーの能政夕介氏と共作した一人芝居です。演劇に縁の無かった能政氏と作品づくりをしたのはいくつかの理由があります。毎日のように会うビジネスという私とは異なる世界で生きるすぐ隣の他者と向き合うこと、日本の放送史におけるアナウンサーの発話の変遷を辿り、現在、正しいとされる日本語の発話につなげ、更にそれを解体あるいは溶解させることで演劇における日本語の発話を再考すること、東九条の新たな市民が現在の町をどのように見ているのかを記録すること、などです。この町に響く過去からの声にも呼応するように能政氏の声と言葉は未来にも向かって放たれる内容になったかと思います。岐路に立っている町とわたしたちの姿は、おそらくこの地域だけではない普遍的な課題が内包されていると考えています。
2021年11月上演 太田真紀&山田岳 オペラ「ロミオがジュリエット Romeo will Juliet」世界初演について
ソプラノ歌手の太田真紀さんとギターリストの山田岳さんが主催し出演する舞台に、作曲家の足立智美さんが書き下ろし、私が演出した作品です。真紀さんには何度も私の演劇作品に出演をいただいていますが、オペラ作品を演出するのは初めてのことでした。男女のコンビなので、それにあった戯曲は無いか?と真紀さんに問われ、ロミオとジュリエット、または、岸田国士の「紙風船」を紹介しました。それを、足立さんが、ロミオを選び、そのロミオをAIに読み込ませ、それに基づいてでてきた新たなテキストに音をつけるという楽譜が創作されました。音楽は16世紀のダウランドをおもわせる美しいリュートの音色から、エレクトリックギターやベースをかきならす20世紀のメタル音楽まで様々に変容し引用されたものです。また、テキストは不条理文学を彷彿とさせるどこか気品を感じさせつつ読解の困難なものでした。これらの要素や構造は、私にはベケットの作品とも重なり演出は、そのベケット的な手法を明白に引用することで構成しました。文学、音楽、演劇の400年の時間の流れを重ね合わせたオペラというような考えでもありました。光栄にも同作は文化庁芸術祭賞大賞の栄誉を授かりました。
2022年2月上演予定 森村泰昌×桐竹勘十郎 人間浄瑠璃「新・鏡影奇譚」について
大阪に新たに開館する中之島美術館開館記念公演として上演予定の作品です。人形となった森村さんを人形遣いの桐竹勘十郎さんが操作するというものです。さて本作は目下稽古中の物で詳細はまた別の稿に記したいと思います。先のオペラ同様に、私にはまた新たな分野での仕事となっています。
これまでも、俳優以外に、ダンサー、哲学者、美術家、音楽家、犬など、異分野の方々との作品作りを重ねています。時には出演者が存在しない無人劇というものもいくつか創作してきました。これからも、私とは違う言語(芸術言語)を持った人や空間の中で、新たな演劇言語を探していこうと考えています。次の年度では、例えば、「アカルナイの人々」を題材に、ギリシア語で要求されている韻律を翻訳された日本語で再現する場合にどのような演技の方法があり得るかを、俳優と音楽家と研究者とで見つけ出そうとしています。それが、具体的な手法を伴って、聞いた事のない劇の言葉となればと芸術上の課題として考えています。また、本作が訴える「平和」ということを例えば、変革期を迎えようとする東九条の町における「平和」とは何かを。同時に考え続けたいと思います。
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*プッシュ型支援プロジェクト#TuneUpforECoC 支援アーティスト*
https://www.eu-japanfest.org/tuneupforecoc/
(*2022年1月にご執筆いただきました)