コラム
Columnアートの力と異文化交流
2022年の欧州文化都市にリトアニアのカウナスが選ばれたことを記念して世界から100人の青年を集めて、およそ一週間にわたるサマーキャンプがカウナスで行われた。「100の新しいこと」をテーマに、現地の方々との交流やトレッキングなどを通してカウナスの歴史や文化を学んだ。
キャンプの具体的な内容として、一日目は高原で体を使ったレクリエーションを通して多くの青年と交流し、二日目からは二つのグループに分かれ、私のグループはトレッキングをしながらカウナスの歴史や文化を現地の方に教えてもらった。三日目は午前中に動画を作成する際のカメラのアングルや対象物の位置などのレクチャーを受け、午後にリトアニアに関する歴史に基づき、各グループ5,6人に別れてショートムービーを実際に作成して最後には全員で鑑賞した。四日目はカウナスの魅力をどのように発信し、カウナスに来てもらうにはどうすればいいのかを話し合った。また資本を提供する人やそのメリットについて分析し、一つのビジネス提案を考え発表した。五日目は午前中にデザイン(主にユニバーサルデザイン)についてのレクチャーを受け、その後グループに分かれて身体障害体験として、視界を狭めるゴーグルをして川沿いを歩いた。また妊婦体験として、腰に重荷を巻き付けて坂を上るなど普段の生活では、なかなか気づくことのできない身体にハンデを背負う経験をして見えないものが見えた。例えば、何気なく使っている階段も体が不自由だと一段一段がとてもしんどく感じられ、急勾配な坂道も高齢者や足が不自由な人にとっては、生活に支障をきたすほどの大きな障害となりえることを学んだ。そのうえで午後はこの島の人が生活しやすいようにするための提案を考えポスター発表をした。
最終日は全員でリトアニアにまつわるストーリーを聞き、その後グループに分かれてそれぞれオリジナルのストーリーを考え時間の許す限り発表した。中には外で実際にナレーションをしながら演劇を披露するグループもあり、その独創性や創造的な発想に強く感銘を受けた。
カウナスの街を歩いているとバイオリンの音が聞こえてきた。小学校高学年くらいの少年がアコーディオンを弾いていた。音楽がこんなにも身近に溶け込んでいるカウナスを美しいと思った。またいたるところにアートを見つけることができた。例えば壁に天使やピンクの象が描かれているなど、日常から心を一瞬引き離してくれるようなそんな仕掛けが街のあらゆるところに施してあった。アートをはじめ、食べ物や文化、音楽、建造物、生活スタイル、気候、地形、宗教、ものの見方、価値観などその全てが日本と大きく異なっていて本当に刺激的だった。東洋にはない西洋の良さに気づくとともに、西洋を知って、東洋のすばらしさにも気づくことができたと思う。電車に乗り遅れないように、時間ばかりに気を取られ、人とぶつからないように、いそいそと歩いているまじめな日本人を思うと気の毒にさえ感じられた。日本と比較すると、カウナスは時間の流れもゆっくりで、人の心にも余裕があるように見えた。この経験を通して強く感じたのは、日本にももっとアートを生活に取り入れるべきだということである。音楽も美術も、コンサート会場や美術館の中だけのものではなく、もっと人々の暮らしに寄り添って存在するべきものであると強く思った。人々が思わず足を止めて見入ってしまうような絵画や音楽がもっと人々の身近にあればいいのにと心から思うし、そうあるべきであると思った。文化が平和をつくり、アートはその大きな中核を担う力を秘めていると確信する。
このキャンプではありがたくも、異なるバックグランドを持つ多くの青年と意見を交換したり、解決策を議論したりする機会があり、日本では決して気づくことのできない多くのことを学ぶことができた。生まれ育った国、その国の歴史的背景、価値観、文化などが異なると、自分一人では到底考えも及ばないような独創的なアイデアや解決策を生み出すことができるのかと深く感動した。国籍や肌の色、性別や文化の差異を悲観的にとらえるのではなく、いかなる文化や伝統も尊重し、その差異でさえも愛していくことが重要だと思った。その土地の良さは、訪れてみて、人に会って、話してみれば深く分かり合える。なんでも、自分の目で、耳で、心で学んでいくことが重要であると学んだ。さらに言語や文化の差異を乗り越えてこんなにも、友情を育み共鳴しあうことができることに感動した。これからももっと多くの人と友情を築いていきたいと思った。そのうえで重要なのは、その人の国の文化や価値観を尊重し、知ろうとする心であり、誠実さであると確信する。国籍や言語の違いなどは取るに足らぬものであり、私たちはこの地球上に存在する人間という意味でなんの差異もないはずである。だからこそ、どんな人とも必ず友情を築いていけるし、この友情が世界平和への第一歩であると確信する。
今回のキャンプを通して「スローフード」を促進させたいと思った。人々が広場のカフェでコーヒーやお酒を飲みながら、クッキーやケーキなどを食べ、友人や家族といろいろな話をして過ごす時間がどれほどの価値があり、有意義な時間であるか、またその時間を少しでも多くの人が持てるように尽力したい。食糧問題の解決に貢献するという自身の夢を再確認することができた。そのために大学院で農業経済学を学び、多くの人の幸せな「食卓」に貢献したい。