ツレスを結ぶ日本の橋

インゲ・ソリス|ツレス・チーム

欧州文化首都リエカ2020の一環である本プロジェクトは、EU・ジャパンフェスト日本委員会と日本人アーティストとの協働により道が開かれました。私達は開始当初、公共事業や地元コミュニティのニーズについての調査を実施しました。ツレス島の市民に、自分達の町に建設してほしいもの、あるいはあってほしいものは何かと尋ねることにしたのです。その結果、住民の希望が、町の港の玄関口であるふたつの桟橋を結ぶ歩道橋であることが判明しました。

具体的には、私達の行った調査で、95%もの島民が橋の建設を選択しました。さらに私達は、橋についてふたつの選択肢を提示しました。ツレス市からの賛同を得て、私達は当プロジェクトを市の管轄下で継続する運びとなりました。文化省保護局ならびに他の機関からもご支援をいただきました。

この調査を通じて、この島の人々の想いが明らかになりました。このような小さな伝統的な地域環境を考えると、その反響は多大だったといえます。年長世代がベネチア風の石橋を望む一方で、若年世代は、島に新しいモダンな建造物が造られ、その新たな潮流が自分達の島に現代化をもたらし、未来が開けるという発想に心躍らせていました。

二名の日本人建築家がスケッチをご提供くださいました。この調査で、島民に意見や感想を述べてもらうよう求めました。また市の各機関ならびにリエカの環境保全局からも意見が寄せられました。景観を妨げず、かつ建設しやすいデザインが功を奏し、近藤哲雄氏の歩道橋に決定しました。近藤哲雄氏の提案は、厚さ5センチ、長さ18メートルのコルテン鋼素材で造られた、視覚的に絶妙な弧を描き出す橋でした。 

橋のデザイン ©Tetsuo Kondo

それは都市の港の景色を遮ったり、調和を乱すことのない、軽構造の橋となります。こうして島民は、近藤哲雄氏により設計されたデザインを選択するに至ったのです。

ツレスに橋を築いてほしいという願いは、長年にわたり存在していましたが、今になってようやく文化省国土保全局からの承認が得られました。その理由は、現代日本建築が世界的に認められていることに他なりません。そのモダンな建造物がこの中世都市の調和と美をよりいっそう際立たせ、この島における新たな観光名所となるものと期待されます。

我が都市の市民は、この橋を心待ちにしています。なぜならば、それが街の暮らしをより楽にしてくれるからです。ツレスは二千人の人口を擁する地中海沿岸の小さな町ですが、夏季になるとその数は倍増します。あまりの混雑と西岸へのアクセスの難しさにより、市内の移動が困難となります。

新型コロナウィルス感染症拡大の状況により、残念ながら遅延を余儀なくされ、この計画に支障を来しています。コロナの病は全世界に強い影響を及ぼしていますが、観光業を完全に頼みとする私達の小さな島ではとりわけ影響を受けました。私達は各機関からの助成金を期待することができませんでした。それでも私達は、「日本の橋」との愛称で親しまれる橋が、近い将来ツレスに築かれるよう望んでいます。

近藤哲雄氏の橋のデザインに向けた資金のご支援に感謝いたします。この橋のデザインは、私達にとって大変意義深いものがあります。なぜならば、それは我々の目標達成までの道のりの最初の第一歩であるからです。この最終デザインをもとに、様々なコンペに応募していくことが可能となりました。

橋の建設予定地

現段階は、ツレスにおける日本の橋の実現と建設に向けた序幕であり第一歩を意味します。建築家近藤哲雄氏のデザイン案は、ツレス市、郡港湾局、文化省、交通海事省といった国家および市の機関に提出されることになっています。これらの機関との連携があって初めて、私達は本プロジェクトを成し遂げることができるのです。ひとつの発想として芽生え、その基礎をなすツレスの町の人々の願いから動きだしたこのプロジェクトですが、近藤哲雄氏の美しいデザインを携え、私達は目標を達成すべく取り組み続けていきたいと思います。

その橋は、小さな町の昔から続く風景に新たな潮流をもたらしながら、地中海と現代日本建築を文字通りそして象徴的なかたちで融合させることでしょう。

若者達はツレス島を離れていきます。ここはこじんまりとしたもの静かなコミュニティです。人々は新しい発想を受け入れ難く感じる傾向にありますが、まさにこの橋は、新たな展望を切り開いています。私達は人々に、旧市街の過去を尊重し、保護しなければならない一方で、新しい素材や新たな発想を活かしながら、21世紀へと乗り出すべきであることを示していきたいと考えています。この橋は、そのゴールへの到達に向けた小さなステップといえます。なぜならば、この橋が街じゅうの話題を独占し、馴染み深い、視覚的にも魅力的なものとなるからです。この橋がツレスで初の現代建築となることもあり、私達は本プロジェクトの完成を心から楽しみにしています。