プルゼニに集結した人形劇の巨匠達

ヤクブ・ホラ|スクポヴァ・プルゼニ国際人形劇祭 ディレクター

チェコ共和国最大の国際人形劇祭、スクポヴァ・プルゼニの一環として、日本の現代人形劇を特集したユニークなプログラムが開催されました。本プログラムには、19名の日本人アーティストが参加しました。

この日本プログラムでは、日本人形劇の分野における現代パフォーマンスのエッセンスをまとめてお届けしました。

一番にプルゼニ入りした日本人アーティストが、京都の糸あやつり人形劇団みのむしの一行でした。この劇団は、日本の文化財に指定されている「江戸糸あやつり人形」という大衆に愛されるジャンルを専門としています。これは日本人形劇界の伝説的存在であり、NHKテレビ局の協力作家でもある飯室康一氏が主宰する劇団です。

糸あやつり人形劇団みのむしは、豪傑岩見重太郎が怪物狒々(ひひ)を打ち負かす物語『岩見重太郎 狒々退治の段』の演目をプルゼニで上演しました。1500人もの観客が見守る野外フェスティバルで、これらの日本人人形遣い達は、開演してすぐさまプルゼニの観客の心を掴みました。出演者はパフォーマンスすべての台詞をチェコ語で覚え、演じ上げたのです。観客はこれに感激し、盛大な拍手を送りました。また糸あやつり人形劇団みのむしのマリオネット達は、秀逸な人形遣いの技術と日本ならではの和やかなユーモアで観客を魅了しました。フェスティバル会期中、彼らはこれ以外にもアルファ劇場で2回の公演を行い、さらに人形劇の専門家に向けたワークショップを1回実施しました。各回いずれも大成功を収めました。

Marionette Minomushi in Alfa theatre©︎Alfa Theatre

飯室康一氏は、チェコ人の人形遣いに日本の糸あやつり人形の操演技術を紹介し、日本の人形劇団の長い伝統と世襲制について解説しました。

東京を拠点とする著名パフォーマー黒谷都氏とご自身が主宰する劇団genre:Gray(ジャンル グレイ)が、モダンな現代人形劇を披露しました。人形芝居『涯なし』は、プルゼニにあるムービング・ステーションの劇場ホールを埋め尽くした満席の観客に向けて、2回上演されました。各公演ともに大盛況に終わりました。黒谷都氏は、人形劇に舞踏の踊りを融合しています。本作『涯なし』では、黒谷氏が自らの身体と人形の身体が一体となっています。そのパフォーマンスは情感と真の芸術に満ち溢れており、黒谷氏が人形になり、人形が生きた人間へと化します。多数のチェコの観客が、これほどまでに個性的なお芝居を未だかつて観たことがなかったと率直に語っていました。

黒谷都氏は、プラハにある舞台美術デザイナーのペトル・マターセク氏と演出家のヨセフ・クロフタ氏のアトリエで両氏に師事しました。二人の作品づくりは、彼女に多大な影響をもたらしました。終演後に必ず、黒谷氏は、20年以上もの歳月を経てチェコ共和国に戻り、チェコの文化と縁の深い自らの作品を披露できたことに対し、主催者への感謝の気持ちを表していました。

Kusunoki Tsubame in Alfa theatre©︎Alfa Theatre

スクポヴァ・プルゼニ国際人形劇祭で三番目に登場した日本の劇団が、日本ウニマ(国際人形劇連盟日本センター)会長のくすのき燕氏主宰の人形芝居燕屋でした。本フェスティバルで彼は、幼稚園の園児や子供連れの両親、さらにはプロの人形遣いに向けて『ハロー!カンクロー』と『ねずみのすもう』の二演目を上演しました。くすのき燕氏は子供達を前に、肩掛け人形芝居というスタイルで演じました。これは古典的な日本の民俗演劇です。『ねずみのすもう』は、日本で最も有名な童話のひとつです。くすのき燕氏は、アルファ劇場で2回とプルゼニ人形劇博物館で1回の公演を行いました。子供達は、オウムのカンクローと燕氏の腹話術にすっかり夢中になりました。

プルゼニにおける日本プログラム最大のスターといえたのが、八王子車人形西川古柳座で、車人形と呼ばれる、ろくろ車(箱車)に腰掛けて演じる特殊な形式の文楽を披露しました。西川古柳氏とそのご子息は、日本で古来より伝わる伝説『三番叟』、『日高川入相花王』、『雪女』を、大入り満員となったアルファ劇場のホールで2回の公演を行いました。その後一座は、日本の文楽人形を用いた独自の操法によるフラメンコの舞いを追加で演じました。

地方(じかた)と呼ばれる演奏者は、卓越した語り手の太夫と完璧に息の合った三味線弾きで構成されていました。西川古柳氏は、フェスティバル会期中、プロの人形遣い向けのワークショップも実施しました。また一座は、アルファ劇場に所属するチェコ人の俳優らとプーク人形劇場の日本の仲間達の力添えを得ました。それは興味深い経験となりました。

プーク人形劇場を代表し、4名が本フェスティバルに参加しました。これらのメンバーは、主にチェコ人と日本人の人形遣いの国際的協力の発展に尽力しました。

また日本人チームは、本フェスティバルと日本文化に関する情報を発信する独自のフェスティバル・ジャーナル「木偶日報」を発刊しました。この日報は一日当たり500部が発行され、全日完売となりました。

大規模な国際フォーラムの観客を前に、日本の人形劇が上演されました。フェスティバルの会期に合わせ、ウニマ(国際人形劇連盟)執行委員会の総会が開催されていたのです。本フェスティバルには、ウニマ代表会長のカレン・スミス氏とウニマ書記長のディミトリ・ジャジェノー氏がお越しくださいました。

米国、カナダ、日本、韓国、シンガポール、スロバキア、ドイツ、ポーランド、ハンガリー、フランス、スペイン、スロベニア、クロアチア、ベルギーから集まった、劇場の文芸顧問、フェスティバルディレクター、プロモーター、アーティストなどで成る合計50名の国際的な来賓がフェスティバルにご来場くださいました。プルゼニで出演した複数の日本の劇団が、今後海外でのさらなるゲスト出演のオファーを受けていました。

本プロジェクト全体が、チェコ国立芸術アカデミー、チェコ共和国ウニマ、そしてチェコの人形劇専門誌「Loutkář(ロウトカーシュ)」をはじめとするチェコの芸術専門家コミュニティのあいだで、非常に肯定的な評価を博しました。またプルゼニ市からも大好評をいただきました。フェスティバル、スクポヴァ・プルゼニの専門家審査員は、日本プログラム実現化の功績を称え、Deku Art Forum(デクアートフォーラム)に栄誉賞を授与しました。

またチェコ共和国マルティン・バクサ文化大臣も、日本プログラムならびに本フェスティバルをご訪問くださいました。

Koryu Nishikawa and great Czech animation director Jiří Barta in festival©︎Alfa Theatre

チェコの観客は、日本の現代人形劇団、特に日本人人形遣いの面々と直接出会える機会に恵まれたことに、とても感謝していました。本プロジェクトが網羅した領域もまた重要といえました。なぜならば、これにより日本の人形劇の分野全体を総合的に捉えることが可能となったからです。

本プロジェクトは、アルファ劇場『快傑ゾロ』の日本ツアーを引っ提げ、2022年もさらに継続して参ります。この巡回公演は、アルファ劇場とプーク人形劇場の協働により実施されます。ツアーの期間は2ヵ月を予定しています。2023年には、アルファ劇場とプーク人形劇場の共同制作に向けた準備が開始します。この舞台は、2024年にプレミア公演を迎え、アルファ劇場とDeku Art Forumおよびプーク人形劇場により展開いたします。