コラム
Column多様性こそアートの価値
(1)バックグランドの多様性とコミュニケーション方法の違い
今回のプログラムには、32名の参加者と4名のファシリテイターが参加した。
ヨーロッパ18名 北米3名 オーストラリア3名
アフリカ4名 中東2名 アジア6名
主催のEuropean Festival Academyはヨーロッパ(特にUK)からの出資が多く、参加者の出身地域にその傾向が表れている。
©Sebio Aquilino
若手を対象としているため、年代は30代前半でキャリア10年弱という参加者が大半だった。「アート」というくくりの参加者の専門分野は多様で、パフォーミングアーツ(演劇、ダンス、パフォーマンス等)、音楽、映画、美術など幅広い。所属組織においても、公共団体、大学、任意団体、フェスティバル事務局、自身が創設した団体など、こちらもかなり多様である。
私が本セミナーで見出した一番の特徴はこの多様性である。この多種多様な参加者それぞれの価値観や視点、方法で展開される対話はあらゆる方向に展開し、ほぼ全ての対話プログラムにおいて終着点を見出し切れなかった。議題に重点を置きディスカッションを進める上では、多様すぎて焦点を絞るのが難しいと感じた。
一方で、多様な考え方や表現方法、文化、状況などを把握し、相手をどのように理解し受け入れるかを考えるトレーニングになった。日本や韓国、タイの参加者は、まず相手の話に耳を傾ける人が多かったのに対して、欧米、オーストラリアなどの参加者は相手に対して賛否を明確にし自己主張をする傾向が強く、そこに文化の違いを感じた。そういったコミュニケーション方法の違いを感じたことはとても大きく、どのように間合いをとり関係性を作っていくのかを試行錯誤する日々だった。
(2)難民とアートの関係
今回のプログラムの中には難民に関するものがいくつかあり、マルタの支援団体に援助を受け活動している難民アーティストの話も聞くことができた。難民キャンプや戦地で感じたリアルな感情をアートで表現していく彼らの説得力は強力で、伝えなくてはならないという危機感を感じた。日本では日常的にあまり馴染みのない難民問題だが、ヨーロッパや中東、アフリカなどの地域では日常的な話題であり、アートシーンにも大きな影響を与えていることを実感した。難民アーティスト支援方法や難民にアートに参加してもらうにはどうしたら良いかなどについても触れ、エジプト出身の参加者からは難民キャンプで開催されるフェスティバルの実例紹介もあった。辛い状況の中でもフェスティバルにおいて一時的にでも心が和らぎ笑顔を取り戻すことができた人々のことを想像すると、その意味は非常に大きいと思った。私が普段暮らしている中では感じることのできない社会に対するアートの役割を新たな側面から感じられると同時に、島国日本においてアートはどんな社会的役割があるのかを改めて考える必要があると自己回帰した。
©Sebio Aquilino
(3) 政治摩擦を越えたアートの架け橋
韓国の参加者と話しているなかで、日本と韓国の間にある政治摩擦の話題が上がった。私自身は韓国に対して悪い印象を持ったことはないが、韓国の同年代はどうなんだろうとふと思い、政治的な問題もあるが日本に対してのイメージはどうかという質問を投げかけた。彼女からは、両国間に問題があることも含め現実を受け止め、日本のアーティストとも交流したいし、交流することで見えてくる価値観を共有したいという答えが返ってきた。この視点は至極真っ当で、様々な表現方法を用いて協働することで国際的な文化交流につながると実感でき心に響いた。同時に、アートには政治的な問題を超えて協働できる機会を生み出すことができる重要なコミュニケーションツールであるということを強く意識し、そこに従事する者としての責任感を再認識した。
レクチャーの中で、参加者それぞれの国のパスポートでフリービザ渡航できる国の数について触れる機会があり、日本は圧倒的な数の多さであると同時に、極端に数が少ない国もあることが明示された。それを受けふと周りを見渡した時、国によって社会的に違いがあったとしても「アート」という共通のフィールドにおいてはその場に共存しているという現実を見ることができ、これはとても貴重なことなのだと感じた。様々な境遇を持った人間同士が共に笑い、泣き、感動する空間、時間、を生み出すことが、アートプロデューサーの一つの大きな役割であると自己啓発する瞬間だった。
今回初めてアジアからの参加者を募ったということで、内容については新規参入エリアの参加者に配慮したトピックを増やすなど広がりを持ってプログラミングしてほしいと思う点もあったが、国境を越えて同じ志を持った同年代の参加者と出会えたことは今後の活動の中で必ず力になると感じた。世界中に仲間を作っていくことで視野を広げ、私自身のキャリア形成に大きく関わってくると実感できた1週間だった。