新たな展望を切り開く新鮮な視点をもたらす著書『世界史の構造』

イヴァ・スシッチ|欧州文化首都リエカ2020 プロトコル/国際コミュニケーション・アソシエイト

Dopolavoroは、新たな労働の形態ならびに労働の新形態のためのインフラに特化したプログラムで、これにはテクノロジー、労働関係を規定する上でのコミュニティおよび社会の明確な立場、体制的な責任の詳細化、自由なコミュニケーション、そして規定化された労働と労働者の形態が含まれます。労働の新形態には、10年前までは存在しなかったもの、遂行されていなかったもの、あるいは普及することのなかったものが含まれます。またこれは、現代に誕生したデジタル環境において、従来型の労働形態から派生した各種形態(YouTubeチャンネル、暗号通貨プラットフォーム上の金融サービスなど)にも当てはまります。Dopolavoroは、文化芸術的活動、参加型活動、知識生産、アトラクションといった複数の層をなすプログラムを通じて実現されます。本プログラムの中核に置かれているのが文化芸術活動で、これらが本プログラムの根底をなす方法論を表現し、その結果として、時が流れるにつれてそれが主要な側面をなすのです。 

プログラムの内容は、以下に基づいて実施されます。

– 複合的芸術制作プログラム(研究、公共空間におけるアクション、ワークショップ、シンポジウム、博物館・美術館、劇場、公共空間に向けた作品制作を含む)、ワークショップ、セミナー、その他の活動。ワークショップとセミナーは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、そのほとんどが中止となりました。

– 即興的な芸術による介入と簡素な作品制作(国際的に著名なアーティストならびに国内の若手作家による応答を、デジタルプラットフォーム、メディア、博物館・ギャラリーならびに公共空間にて披露)

– 芸術作品発表のためのプログラムのフレームワーク(出版プログラム、フェスティバル、カンファレンス、展覧会で構成され、これらを通じて、本プログラムの方針の枠組みにおいて制作されたコンテンツと、同トピックを扱うゲストコンテンツがまとめられます。)

 

出版プログラムを除くDopolavoroプログラムは、新型コロナウイルス感染症危機およびこれを受けて敷かれた疫学的措置の影響により、大幅な変更を余儀なくされました。

 

キャンセルとなったプログラムのひとつが「Dopolavoroカンファレンス:社会変化、新技術、労働の未来」でした。このカンファレンスでは、国際的に活躍する基調講演者に登壇していただくことが予定され、その多くがDopolavoroの刊行シリーズ『労働と思想』のもとで出版された書籍の著者でした。これには南米、北米、欧州、アジアからの講演者の移動を伴うことから、各国でさまざまな疫学的措置体制が敷かれている状況を鑑み、本カンファレンスは実現可能とはいえないことが明らかになりました。幸いにも、出版プログラムに関しては、何とか続行することができました。

 

『労働と思想』と題したDopolavoroによる刊行シリーズは、世界的に絶賛される作家や専門家らによる著書をクロアチア語に翻訳したもので構成され、Dopolavoroプログラムを理論的かつ研究的な文脈に置いています。芸術家ならびに非情緒的な研究者らが、我々が生きる脱工業化時代において重要な役割を果たしています。普通とは異なる視点で物事を観察し、問いを投げかけ、挑発し、構想するというのは、文化セクターに従事する人々の典型といえます。このシリーズの全作が、多様な視点、その歴史的役割、そして他の基本的な社会活動との関連性を通じて、現代社会における労働に対する理解に寄与しています。 

 

欧州文化首都リエカ2020の文脈の一環として、世界的に名を馳せる日本人文学者で哲学者の柄谷行人氏の著書『世界史の構造』がクロアチア語に翻訳され、これは柄谷氏の著作としては初めての南スラヴ圏言語による翻訳版となりました。柄谷氏によるこの代表作は、もともと2010年に日本で発刊されたものです。カンファレンスの場でこの翻訳版の告知および発表が予定されていたことから、クロアチア語への翻訳作業は2020年前半に行われていました。若干の遅れが生じたものの、本書は2020年後半に出版を迎えました。この著書は、生産様式から、交換様式、再分配、市場、さらに異なる歴史区分においてこれらが形成された方法に焦点を転換することにより、世界史観のパラダイムに変革をもたらしています。遂には、柄谷行人氏がカントの考える永遠平和論を踏まえた、新しい交換のかたちを形成する可能性が検討されたのです。本書は、大局的な交換様式からの社会構成体の歴史の再考を試みています。今日に至るまで、マルクス主義において、こうした考察は生産様式の観点、つまり誰が生産手段を所有するかのという観点からなされていました。生産様式は「経済的土台」とみなされ、政治的、宗教的、文化的な土台は、観念的な上部構造と考えられています。マルクス主義者のあいだで、国家やネーション(国民)といった観念的な上部構造は、資本主義経済が廃止されたときに自動的に消滅するものと信じられていましたが、現実にはその予想は裏切られ、国家やネーションを論じる試みに失敗しています。クロアチアでは、主に唯物論的パラダイムからの叙述あるいは国民形成の観点から歴史が読み取られています。柄谷氏のアプローチは、クロアチアの読者が歴史や社会のプロセスを理解する上で、新たな展望を開く新鮮な視点をもたらすとともに、読者に高次のプロセスを読み解く支配的パラダイムの問い直しを促しているのです。

 

本書は、幅広いオーディエンスにお届けすることが重要であったことから、名声高いクロアチアの出版社兼書店Jesenski and Turk社との共同制作により出版されました。現在、書店、オンラインならびにリエカの文化施設の一部で発売されています。現代世界とその断絶的な変化に関心をお持ちのすべての方々にとってまさに必読の一冊といえますので、公開プレゼンテーションはまだ先となりますが、一般向けのイベントの開催により望ましい状況が訪れた際に実施したいと考えております。