コラム
Column日本人ゲスト、プルゼニで輝く
今回プルゼニ・フィルハーモニックは、日本音楽フェスティバルのプログラムの目玉として、京都市交響楽団を招聘した。このコンサートは欧州文化首都プルゼニ2015の一環でもある。開催にあたっては、プルゼニ2015 B.Co.による協力、京都市およびEU・ジャパンフェスト日本委員会からの寛大な支援があったことを強調しなければならない。プルゼニ市公会堂内の大コンサートホールには、緊張と期待に溢れた観客たちがひしめいていた。定期会員以外にも、興味を持って集まった人たちがかなり多かったため、追加の席を用意しなければいけないほどだった。こういったイベントには、オフィシャルな挨拶がつきものだ。駐チェコ日本大使の山川鉄郎氏、プルゼニ・フィルハーモニックの責任者、B.Co.、レンカ・カヴァロヴァー氏、そしてプルゼニ市代表者といった面々が、聴衆に向け歓迎のあいさつを行った。
京都市交響楽団は1956年に創立された、日本で四番目に古い交響楽団だ。いわゆる「モーツァルト・オーケストラ」と呼ばれるような規模だった小楽団が、いまや大編成のオーケストラに変貌し、19~20世紀の近代音楽や、古都京都に刺激を受けた現代作曲家の作品を演奏している。またそれらの演奏により、日本レコード大賞も受賞した。フランス、オーストリア、1997年のプラハの春国際音楽祭など、ヨーロッパ各国でも多くの公演実績を持つ。また、今回のプルゼニ公演は、同楽団創立60周年記念ツアーのひとつでもある。プルゼニ以外では、ケルン、アムステルダム、フィレンツェで公演を行ってきた。2014年より広上淳一氏が常任指揮者を務めている。広上氏は1958年に東京で生まれ、東京音楽大学にて楽理、ピアノ、ヴィオラを学んだ。26歳のとき、アムステルダムのキリル・コンドラシン国際青年指揮者コンクールで優勝したのをきっかけに指揮者デビュー。当時審査員のひとりであったウラディミール・アシュケナージの紹介で、NHK交響楽団およびフランス国立管弦楽団で指揮棒を振る機会を得た。広上氏は日本の全てのオーケストラと共演しており、欧米での実績も豊富なうえ、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団で初めて指揮をした日本人でもある。また、シドニー歌劇場でオペラデビューも飾った。
プルゼニの音楽祭で、この巨大なオーケストラ-ヴァイオリンだけで30台を擁する-はプログラムのオープニングを飾った。優れた統率力と順応性を誇る彼らの合奏は、陰影と迫力に満ちた音色で聴衆を魅了した。小柄ながら機敏かつエネルギーに満ちた広上指揮者は、オーケストラを完全に掌中に収めていた。また、今回の公演では、日本の楽曲もいくつか演奏されることになっており、まずは伝統的な日本音楽と西洋の音楽を融合させた作品で知られる、20世紀の作曲家による作品が演奏された。武満徹(1930-1996)の音楽は、様々な様式や実験的な試みに成功している。そのサウンドの多様性と進歩性から、武満の作品は多くの映画に使われており、手掛けた映画音楽の数は100曲以上にわたる。晩年の傑作のひとつである『3つの映画音楽』では、ロマン派の作風に日本音楽の要素を加えた様式を採用した。
観客は印象深い、しかしあくまで軽妙さを失わない音楽に熱中し、オーケストラは広上氏の表現力豊かな指揮のお陰で、常に最高レベルの演奏を保っていた。
京都市交響楽団は次に、やや小規模の編成でプロコフィエフのヴァイオリンコンチェルト第2番ト短調を演奏した。ヴァイオリンソロを務めた三浦文彰は2009年にハノーファー国際ヴァイオリン・コンクールで優勝した22歳で、他にも多くの受賞歴を誇る。現在はウィーンで学んでおり、オーストリア、ドイツ、ポーランド、アメリカ、そして故郷日本でたくさんのオーケストラと共演を重ねている。この若いヴァイオリニストは気負いなく、しかし完全に作品に没頭していた。作曲家の意図を汲み取りながら、ソリストとオーケストラは完璧な共演を見せた。聴衆は慣例どおりアンコールを求めたが、追加の演奏はなかった。しかしながら、これは結果的には適当であったと言えるだろう。素晴らしい感情的体験にはおまけなど無用だ。個人的に、この演奏はコンサート全体の中でも最高のプログラムだったと感じている。
休憩をはさんで、京都市交響楽団はリヒャルド・シュトラウス(1864-1949)の作品を披露した。まずは、『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』をフルオーケストラで。この作品は、16世紀ドイツに存在した奇人の伝説を題材に書かれている。広上氏はこの作品を完璧に練り上げ、その表現は我々がふだん聴くものよりずっとドラマチックであった。エンディングを飾ったのは、シュトラウスのオペラ曲の中でも最も有名な『ばらの騎士』の組曲。この作品は18~19世紀ウィーン人の気ままな快楽主義を体現している。オリジナルのオーケストレーションが作り出した輝きは主にワルツのリズムに由来するものだが、広上氏の解釈ではそれがますます凝縮され、軽妙さと活力の渦となって聴衆を圧倒した。聴衆の興奮は収まらず、今回こそアンコールが必要だった。コンサートの締めくくりとして、この日本からのゲストはドヴォルザークのスラブ舞曲を演奏し、観客を喜ばせた。
今回のコンサートで奏でられた美しい弦楽器の音色やプロコフィエフのヴァイオリンコンチェルト、ワルツのリズムにひそんだ魂と興奮は、訪れた人の心に確かに残ることだろう。