満開の桜に彩られた日本文化の祭典

エミリア・シャカリエネ|日本文化週間inカウナス WAフェスティバルディレクター

桜の開花とともに、欧州文化首都カウナス2022の公式フェスティバル「日本文化週間inカウナス WA」の多彩なイベントを通じて、市内は日本文化の祝祭一色に彩られました。着物姿の女性達がライスヴェス通りを優美に歩く光景に、人々はふとあたかも京都にいるような気分を味わいました。こうして一週間にわたって繰り広げられた、日リトアニア友好100周年を祝う饗宴が始まりました。私達の友情の誕生と構築のあゆみは、遥か遠く離れた二国間の友情の懸け橋を築いたアーティスト、外交官、児童生徒、科学者、そして一般の人々の物語を探る展覧会「Lithuania and Japan. We are Together in Our Hearts(リトアニアと日本 心は共に)」で披露されました。

Festival Opening Event – Ayano Honda performance ©Martynas Plepys

本フェスティバルのオープニングイベントは、音楽と日本人ダンサー本田綾乃氏の繊細なダンスの動きで満ち溢れました。人々は高さ3メートルにおよぶ桜の木のインスタレーション作品『10000 Blossoms of Hope for the Freedom of Ukraine(ウクライナの自由に捧げる一万の希望の花)』を愛でました。これは、50を超えるリトアニアの学校の児童達がウクライナへの連帯の気持ちを込めて手作りした紙の花を用いて、アルベルタス・ヤンカウスタス氏が制作したものです。

 

フェスティバルのプログラムは、数々の美しい展覧会が開催されたことで、より充実した内容となりました。ひときわ目を引くタカハシヒロユキミツメ氏のグラフィックアート展「TRA」では、特にリトアニアの民族衣装姿の女の子とその人物像の周りに複数のリトアニアのシンボルをあしらったリトアニア向け特別描き下ろし作品が、そのクリエイティブな精神とナラティブで人々を魅了しました。またフェスティバルのオープニングに訪れた観客は、ブロニスワフ・ピウスツキ展「Nations of Sakhalin(樺太の民族)」を通じて古代日本のアイヌ民族の軌跡を追うよういざなわれ、またカウナス最大の美術館のファサードには、巨大な野外ビデオインスタレーション作品が展示されました。

 

日本伝統芸能の愛好家の方々には、竹本越孝氏、鶴澤三寿々氏、福原百七氏による義太夫節の伴奏とともに繰り広げられた花崎杜季女氏の地唄舞を鑑賞する機会がありました。その舞台のなかで演じられた『The love stories of legendary women: Japanese warrior Tomoe and Eglė the Queen of Serpents(伝説の女性たちの愛の物語:巴御前と蛇の女王エグレ)』では、ヴィリニュス混成合唱団Sonorosが歌うリトアニアのメロディーの共演により、リトアニアと日本の文化的ルーツが生み出すシナジーが反映されていました。日本人女性がリトアニアの蛇の女王エグレの愛と悲劇の物語を具現化する様子は、実に感動的でした。

 

テキスタイルデザインの伝統を探究すべく、日本人アーティスト二ッ谷恵子氏と淳氏が、合同パフォーマンス『Aesthetics of imperfection. Ritual and mastery in cultural dialogue(不完全の美学。文化的対話における儀礼と修得)』で、リトアニア人デザイナーのオレセ・ケキエネ氏、ヨランタ・ヴァゼリンスキエネ氏、リナ・クサイテ氏と、カウナスAURAダンスシアターとのコラボレーションを行いました。本イベントは、日本人ダンサー本田綾乃氏とケン五月氏の出演により、さらに豊かさが増しました。恵子さんと淳さんによって施された襤褸刺し子の技巧は、家族の伝統を大切にし、不完全の美を理解することの重要さを改めて思い起させる象徴となりました。 

 

フェスティバルは、バラエティに富んだイベントで満載でした。日本人コンテンポラリーダンス振付家の鈴木竜氏は、カウナスAURAダンスシアターと協働し、本フェスティバルのために『Esybė(Entity存在)』を制作、見事なプレミア公演を披露し、人間の持つ無限の身体能力を見せつけ、そしてその真価を問いました。本プレミアでは、観客が、世界を牽引するダンスシアター「ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)」で現在活躍中の日本人ゲストダンサー飯田利奈子氏の卓越したパフォーマンスに喝采を送りました。書道芸術ファンの方々は、山口碧生氏による個性みなぎるライブ書道パフォーマンスと、それに続く東京在住のアーティストコリー・フラー氏作の楽曲とダンサーのスザンナ・マッジョ氏とフランチェスカ・ピッツゥーティ氏のダンスとの共演を堪能しました。アーティストは、パンデミックにより世界が閉ざされた後に、他者と距離を保ち、自分達の内なる世界に向かい合う私達を取り巻いた生活の空間としての「間」に対する理解を探求しました。

 

息を吞むような美しい夜のイベントの合間の日中は、日本人アーティストによる各種ワークショップ、映画上映、児童向けの特別教育、茶道芸術の講義、剣道、日本語学に加え、在リトアニア日本国大使館主催によるカウナスの街路を練り歩く伝統的な神輿渡御といったあまりにも珍しい催しなどで盛りだくさんとなりました。春の到来を祝う屋外イベント、春祭りでは、来場者が凧揚げや茶道、剣道の稽古を楽しんだほか、このイベントの特別ゲストとして迎えたカウナス在住のウクライナ人コミュニティの歌い手による歌声に耳を傾ける機会が用意されました。

Installation “Sensless Drawing Bot” by So Kanno and Takahiro Yamaguchi ©Evaldas Virketis

また本フェスティバルでは、これまでにないタイプのゲストをお迎えしました。これは菅野創氏と山口崇洋氏によるインスタレーション『Senseless Drawing Bot』で、これは人工知能がクリエイティブなアーティストの思考を置き換えることができるか否かを決定づける閾値を模索する作品です。二重振り子のカオス性を持った動きを利用した自律生成型ドローイングマシンが、一週間の会期を通じてリアルタイムに抽象的なラインをダイナミックに描きました。この作品は、極めて現代的で想定不可能であると同時に、目まぐるしく変化する未来の世界に対する思想を具現化していることから、観客のあいだで非常に大きな関心を巻き起こしました。

 

日本文化に関する知識をより深めるため、ヴィータウタス・マグヌス大学アジア研究センターでは、数回にわたるレクチャーが開催され、ドキュメンタリー映画『Visas for Life. The Chain of Courage(命のビザ。勇気のバトン)』を通じて、杉原千畝の英雄的行為の物語を振り返りました。コンテンポラリーダンスのコミュニティメンバーならびにさまざまなアーティスト達は、著名な日本人舞踊評論家でジャパン・ダンス・プラグ代表を務める乗越たかお氏と、「What Follows Butoh. The New Japanese Dance Nation(舞踏に続くもの。新・日本のダンスネーション)」と題した乗越氏のレクチャーでご本人と直に対面するという貴重な機会を得ました。

 

日リトアニア友好100周年記念にあたり、特別開催された日本音楽のコンサートの収録が行われ、国営放送局LRTプリウスで放映されました。クリスティアン・ベネディクト氏(テノール)、ビクトリヤ・ミシュクーナイテさん(ソプラノ)、アグネ・サブリーテさん(メゾソプラノ)、ズビグネバス・レビツキス氏(バイオリン)、ウグニュス・バイギニス氏(トランペット)、ジェミーナ・トリンクーナイテさん(カンクレス)、レナタ・レシュール氏(オルガン/フォルテピアノ)、リムビーダス・ミトクス氏(フォルテピアノ)、ジュガス・ダウギルダ氏(打楽器)といった一流の優れたリトアニア人クラッシック音楽の歌手および音楽家が、有名な日本の音楽作品の数々に加え、戦禍に苦しむウクライナへの連帯の意を表して、ウクライナの歌「ウクライナへの祈り」を一曲披露しました。

 

本フェスティバルの有終の美を飾ったのが、岐阜県八百津町とのパートナーシップのもとで実現した、日本人とリトアニア人のアーティストのコラボレーションによるクロージングコンサートでした。コンサートを訪れた観客は、リトアニア文化大臣シモナス・カイリース氏、在福山リトアニア共和国名誉総領事小丸 成洋氏、EU・ジャパンフェスト日本委員会事務局長古木修治氏をはじめとした貴賓の方々からのご挨拶を受けました。この夕べは、加藤拓三氏の力強い和太鼓音楽で開幕し、それに続いて田中旭泉氏による琵琶演奏『羅生門』が披露されました。このクロージングコンサートのために特別に、ケン五月氏がカウナスAURAダンスシアターのダンサーとのコラボレーションによるパフォーマンス作品を制作し、本田綾乃氏とリトアニアの多声合唱団が古代アイヌの歌とリトアニアの多声合唱曲を織り交ぜながら、リトアニアと日本の伝統を融合させました。このクロージングコンサートは、日本とリトアニアの人々によって築き上げられたカウナスと岐阜県八百津町および平塚市の友好関係の記憶の旅を進めていきながら、さまざまなポジティブな感情を湧き起こしました。またこの友情はごく幼少の時期に始まり、小学校の子供達が日本とリトアニア双方の家族を訪問したり、生活を共にしながら、互いの言語や伝統を学び合い、生涯の友となるのです。

 

日本文化の美を表現する独自の発想やパフォーマンスで私達に感動をもたらした、本当にたくさんの素晴らしい日本人アーティストとカウナスでお会いすることができ、感激しています。私は一週間、カウナスにいながら日本で暮らしているような感覚に浸り、それは何とも贅沢な経験となりました。多数の好意的なフィードバックや積極的反応をいただいたことから、すべてのイベントが観客の皆さんから高く評価されたことが窺われ、このことから、カウナスで日本文化週間inカウナス WAフェスティバルの伝統は継続されるべきとの確信が得られました。本フェスティバルは、私達と日本人アーティスト達双方にとって心豊かな経験となりました。EU・ジャパンフェスト日本委員会ならびに欧州文化首都カウナス2022には、両国を結ぶ友情をより強固なものにするこの素晴らしい機会をいただき、私達は特に感謝の気持ちを感じています。