コラム
Column私達の美しい未来を創り出す-佐藤亜希子
アートプロジェクトおよびインスタレーション作品『Buna Bunar』は、過去二年間にわたって次第に発展を遂げました。当初のアイディアはサイトスペシフィックな音響インスタレーションを制作することでしたが、時間の流れとともに原案に修正が重ねられました。作家は地元コミュニティと緊密に協働しながら、郷土の暮らし、美しいブナの森と近隣の井戸の重要性について理解を深めました。クロアチアと日本の両方の文化をいかに捉えるかを熟考した末、亜希子氏は、ゴルニィ・クティのブナの森の持つ豊かさが、その魔法のリンクであることに気づいたのです。自らの芸術的衝動に従うままに、彼女は日本のユネスコ自然遺産、本州北部の山岳地帯にある白神山地へと視察旅行に赴き、残された最後の日本ブナ原生林を訪れました。亜希子氏の芸術的洞察は、作家自身が語った言葉に極めて如実に表れています。
©RIJEKA 2020 llc
「日本語のブナとはブナの木を意味し、これはブナの森に風が吹き抜ける際に『ブーン』と聞こえる音がその名前の語源となっています。ブナーとはクロアチア語で井戸のことを言います。ふたつの文化に由来するふたつの単語による言葉遊び、このプロジェクトは、自然とのコミュニケーションの新たな方法を見出し、ゴルニィ・クティの村にサイトスペシフィック・アートの形態でのプラットフォームを創出する試みの道のりといえます。この作品のための場所となったロケーションは、1887年に造られて以来ゴルニィ・クティの家々に水を供給している井戸を見下ろすブナ科の木々に囲まれています。
自然と心を通わせることで、やがて大きな意味で普遍性を帯びていきます。意識的に接してしているうちに、それぞれの兆候と他の兆候を結びつけるある種のネットワークが見えてきます。これらの兆候が朧げな手がかりを散りばめているようで、幾らかでも理解をしようとそれらのパズルを注意深く組み立てていくことにより、物語が形をなし始めるのです。これはまさに対話といえます。新たなテーマや未来への可能性を探究することがアーティストの特権であるならば、ブナの森は私にとって最高の共作者といえました。私はこの豊かな森には、我々に生活の豊かさを提供してくれる極めて精密できめ細かなメカニズムが備わっていることを知りました。そしてこのことについて知識を深めることから得られる喜びは、計り知れないものがありました。これらの兆候がこの宇宙の真意を物語る言語を理解しているように思えたことから、私はそれらを個々の実体として認識し始めました。私はこれこそが、人類同士のみに留まらず、地球に共存する他の生きとし生けるものとのあいだで交わされる相互作用の未来となるものと確信しています。
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白神山地は東北地方北部の、前方に北海道を望む本州先端部に位置します。この地域には世界最大の手つかずのブナ原生林が広がっており、ユネスコ世界遺産として保護されています。私はそこで、この豊かな森には私達に水を供給する緻密なシステムが備わっており、それがすなわち私達の水源であることを知りました。ブナの幹は大変しなやかで、長い冬のあいだは豪雪の重みを持ちこたえ、雪解けになると森が健康的なミネラルを含んだ清流をもたらし、それがこの地域に流れる5つの主要河川に注がれるほか、ブナの森は酸性や放射能汚染をも取り除く濾過作用という点でも実に重要な役割を果たしています。ブナの葉は、雨滴を集めるのに最適な受け皿としてのデザインとなっており、折り目のついた折り紙のような形状をなしていて、両側に延びる11本の葉脈が幹の表面の黒がかった筋に直結し、そこを伝って雨水が根の先端までまっすぐに流れ落ちます。ブナの葉は非常に丈夫で、完全に堆肥化されるのに5年から6年かかることから、微生物が繁殖したり動物達が越冬するのに適した、驚くほど豊饒でふかふかとした温かな土壌を作り出しているのです。通常ブナの寿命は200年から300年といわれていますが、私はそこで白神山地の樹齢400年を誇る巨木、「マザーツリー」を訪れることができました。ブナの根が、あたかも手をつなぐように絡み合い、一本が倒木した際には、ドミノのように周囲の木々も一緒に倒れるという事実に感銘を覚えました。この光景を目にし、私は生命の環、すなわち私達誰しもが辿り着く運命にある、死の恩寵について考えさせられました。」
日本から戻った亜希子氏は、最終形となるアートインスタレーション作品、『Buna Bunar』を制作しました。
「私はゴルニィ・クティのマザーツリーの一連のスケッチを作成しました。シンプルなスケッチを行うことを通じて、自分の身体が情報の伝達媒体となりました。このプロセス全体が自分自身の感情を見つめる内観となり、あたかも単なるスケッチという営みを通じて、それらの要素が、宇宙のホログラム的性質における異なるレベルの磁気重力周波数で情緒的かつ身体的に反応し合っているかのように感じられました。
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私はこの機会に、ささやかながらゴルニィ・クティ村のこの場所に、ある想いを込めたいと思います。それは貯水槽に新調した木製の扉に彫り込まれた感覚的な物語に表象されています。またガンズ(ナノ化された固体状態のガス)として知られる化学工程によりエネルギーが活性化された溶液の入った3つのガラス容器を沈ませようと考えています。ガンズは、元素の磁気重力場と相互作用します。高エネルギー溶液で満たされたこれらのガラス容器を井戸に入れると、水の元素がそのエネルギー場を転写し、プラズマ水を生み出します。オープニングでは、観客の皆さんに美しい未来への祈りや展望を込めてもらいたいと思っています。このことが、ブナの森に棲む素晴らしい生命体や、変幻自在な語り部としての水、岩、動物や昆虫達、さらには私に豊富な情報を提供してくださった方や制作を支えてくださった職人の方々など多数の人々と共鳴し合うそのプロセスのなかで発展してきたものの表現となるのです。これが私の新たな探検の始まりとなります。『Buna Bunar』のある場所への訪問を楽しんで頂き、また私達の未来を創り出すために、皆さんの想いを込めてもらえたら幸いです。」