コラム
Column絡み合う文化を身に纏う
日本は人を驚愕させ、混乱させ、煩わせ、誘惑し、放心させ、そして夢中にさせます。
商業的な喧噪と静寂漂う茶の間を隔てるエレベーターシャフトに沿って積み重なる、高層ビルのフロアでの垂直的な生活。非情な未来主義の生産と、先人の手によって造られた手工芸品への崇敬の念。かけ離れているようで、同時に説明し難い密接さが感じられます。
この緊密感を引き起こしているものとは何か?
好奇心:不可思議な文化とその神秘的な力や儀礼主義といった、積み重なる層を展開してみたいと思う好奇心。
憧憬:未来的展望、最も洗練したテクノロジーとの共存、あらゆる快楽と不快感を含めた都市生活に寄せる憧憬。
崇敬:ルーツ、すなわち民族の記憶を伝承し自分達の祖先を敬愛するための文化的伝統への崇敬の念。
私達は、漫画のヒーロー画や母の嫁入り衣装、海外の友人への手紙、祭礼用の種なしパンのレシピを詰め込んだ旅行鞄を携え、優美な柄や物語の織り込まれた滑らかな日本の着物、おばあさんの刺繍、紙のような布素材や東京の夜景を想わせる玉虫色の光輝く織物を訪ねて、7時間先へと時を飛び越えました。
こうして、不可能と可能の直結と交錯を経て、記憶が未来的デザインに溶け込んだドレスが、コンセプチュアルファッションという形で具現化されたのです。
ブルガリアのソフィアに拠点を置くコンセプチュアルデザイナーのためのプラットフォーム、イヴァン・アセン22によるプロジェクト「プラス・セブン・アワーズ(+7 HOURS)」は、現代ファッションデザインの視覚言語を通じた真の文化的邂逅へと発展を遂げました。
伝統的な日本とブルガリアの文化を織り交ぜ、本場日本の着物の持ち主の個人的なエピソードから着想を得て、現代の都市型ライフスタイルの現象と組み合わせながら、9名のブルガリア人ファッションデザイナーと3名の文化学園大学服飾学部の学生をはじめ、女優、舞台デザイナー、写真家、映像作家で成るブルガリア人アーティスト陣、さらに日本人カメラマン、音楽家が集結し、画期的かつ先見的な展覧会の創出が実現しました。本展では、インスピレーションの源となった着物を含む20着のコンセプチュアルデザイナーの衣装と、「日本人の魂を纏うブルガリア人の肉体…自らのルーツ、家族関する知識、異国の時代や歴史、真正性への探求を通じて本物の自分になること。織物やシンボルを通じて、我々の祖先により身近に触れるために、現代世界において伝統衣装の存在が非常に求められている」という概念を表現した女優イルメナ・チチコヴァ氏主演のファッション映画が披露されました。
ブルガリア人と日本人の両デザイナー達は、深遠なリサーチを基に、個性的なアプローチをとりながら、それぞれのデザインに向けた綿密なコンセプトを展開しました。
ゲオルギ・フロロフをはじめとする数名のデザイナーが、ブルガリアと日本の民族衣装の形状に見られる簡素性を追究し、双方の文化の美学を融合させました。着物は、染織物を重ね合わせることで装飾が創り出され、絵柄と帯の色にポイントが置かれている一方で、ブルガリアの衣装では、刺繍、コインを連ねた飾り紐、タッセルといった要素が、装いにより厳かさを添えています。こうした相違点により、シンプルな幾何学的形状を創り出しながら、構成要素や層を加えることでシルエットの複雑性を生み出すことに成功しました。
デザイナー、ディルヤナ・イヴァノヴァは、自らのブルガリア人としてのアイデンティティをベースに、広範にわたる日本文化に触れながら、視認性の高い共生を追求しました。幾何学性と伝統的素材、脆い記憶の構造を精査することにより、作家がシンボルの持つ人類普遍的な有効性についてより洞察を深める結果となりました。
また記念碑性と幾何学性と対称性は、ヤナ・ドヴォレツカが描く日本の民族衣装のイメージの主要な側面でもあります。それは鎧の威厳を備えた衣服であり、中にいる女性がよりか細く、物静かで、無防備に見える逃避シェルターでもあります。
デザイナー、アレクサンデル・ゲルギノフは、正統派の着物に用いられる寓意的モチーフとその解釈に、伝統的なブルガリアのモチーフやイメージ、象徴的意味を結びつけ、着物の持ち主への切なる願いを込めたささやかな物語を展開しました。このデザイナーの衣装は、生涯の大切な瞬間ごとの美と儚さが立ち現れる、人生の周期を描き出しています。
鮮やかさ、カラフルさ、豊かさ‐これらは双方の文化に当てはまります。東京の街の広告素材や看板やネオンの明かり、そしてブルガリアの色鮮やかに印刷された街灯装飾が、ポリーナ・ソティロヴァの衣装づくりを刺激しました。紙と布の簡素性が並置され、層を成しながら複雑性を生み出しています。芸術と伝承をひとつに結ぶ着物の存在が、衣服の装飾において彼女にインスピレーションをもたらしました。その絵柄を解釈するなかで、彼女は先祖伝来の布素材である、実の祖母が手掛けた民芸刺繍のパネル生地を加工しました。
ネリ・ミッテワの作品のなかでも、竹柄の伝統的な着物と並んで、伝承品が着想点となりました。祖母から受け継いだ刺繍が、テキスタイルデザイナーのディンカ・カサボヴァとのコラボレーションにより、デジタル総柄プリントに変身しました。メインのモチーフとなった菱形は、子孫繁栄と氏族の幸福を象徴しています。反復する菱形文様を背景に、絡み合う竹の束が漫画スタイルで描かれ、その先端が上方向を指していることから、竹の生存への探求、抵抗、生きる意志を物語っています。
このほかブルガリア人デザイナーのインスピレーションとなったのが、象徴的な衣服の帯びる表象的意味や社会的側面で、これは能楽師が着用する武家の正装(シメオン・アタナソフ)や、現在日本社会に見られる「病みかわいい系」現象のようなファッションのトレンド(スタニスラヴァ・ディミトロヴァ)、あるいは東京のイメージ色でドレスアップしたブルガリア正教会の聖アレクサンドル・ネフスキー大聖堂の建築(べタリナ・アタナソヴァは、イコンを日本の漫画に置き換え、全てのキリスト教のシンボルを対照的な色彩と派手なモチーフで表現しています)から窺えます。その一方で、文化学園大学の服装学部の日本人学生達は、シンプルなプリント模様でありながら、反復的な配置により絶大な効果を生み出す、ブルガリアの民族衣装および仮面に見られる見事な配色について詳しく調べました。互いの文化を現代的な視点で描き出しながら、彼らは着物の平面的な構造を取り入れ、ブルガリアの民俗的要素を吹き込んだ、好奇心を掻き立てるコンセプチュアルな衣装の数々を創作するに至りました。
「プラス・セブン・アワーズ」展は、スクラッド・プロヴディフでの18日間の会期中、700名を超える来場者を集めました。
本展は9月14日にプロヴディフで実施されたミュージアムズ・ナイトと、2019年の日本とブルガリアの外交関係を祝うトリプル・アニヴァーサリー記念行事の公式プログラムの一環として開催されました。近頃ではファッション・ウィークエンド・スコピエからのご招待を受け、2019年11月1日にライブファッションパフォーマンスの形式で発表を行うことになり、これが本展に新たな意味合いをもたらすものと期待しています。