日本の現代音楽とメディア・アート文化への跳躍

ベンジャミン・グルーナー|ポッヘン アーティスティック・ディレクター

2023年1月、ポッヘン・ビエンナーレのアーティスティック・ディレクターである私、ベンジャミン・グルーナーは、1ヶ月に及ぶ日本でのリサーチ滞在を行いました。この旅の目的は、アーティストや文化機関との芸術的な繋がりを作ることです。東京で出会った機関のひとつがシビック・クリエイティブ・ベース東京 (CCBT) でした。CCBTは、一般市民がデジタル技術を使って社会における創造的想像力を探求できる拠点です。CCBTにはラボやスタジオがあり、そこでワークショップやプログラムを行い、東京から生まれるイノベーションの原動力を生み出しています。CCBTのチームととても良い交流を持つことが出来、10月5日〜8日にケムニッツで開催されるポッヘン・シンポジウムに、チームメンバーの島田芽衣氏を招いてオンライン・トークを行うことになりました。島田氏は、多くの専門家たちとともにパネルディスカッションに参加。司会はノヴァ・ゴリツァ大学教授で文化首都GO25のサポーターでもあるピーター・プルグ氏。その他の参加者は、キーウ・ビエンナーレのセルジュ・クリムコ氏、ヘラーアウ文化センターのビルテ・ゾネンベルク氏です。

Talk @ Pochen Symposium ©︎Peter Rossner

ディスカッションのテーマは次のようなものでした。

「コロナの世界的流行による文化施設の閉鎖」、「独立系メディアや文化人に対する右派ポピュリズムの文化政策」、「ロシアによる、ウクライナの文化的アイデンティティを抹消するための文化施設への攻撃」ー 複数の危機が重なり合う時代において、文化機関やフェスティバルは、グローカルな適応と学習プロセスを通じて、これらの苦境に立ち向かうという課題、また、変化や緊急事態に備え、可能な限り強固に、そして創造性豊かに対処するという目標にも常に直面しています。持続可能な(国際的な)文化生産を可能にし、連帯に基づくパートナーシップのあり方を確立するためには、地域レベル、世界レベルでどのようなレジリエンス戦略が必要でしょうか。広範なディスカッションの中で、参加者たちは島田氏が経験した津波や地震といった日本の気候変動による大災害のような課題などについても話し合われました。島田氏はディスカッションに参加した感想をこのように述べています。

「シンポジウムに参加させていただき、本当にありがとうございました。正直なところ難しくもありましたが、私たちの取り組みや直面している課題を共有できたことは、素晴らしい経験でした。というのも、アジアでは芸術文化がどのように発展し、社会に受け入れられてきたかという歴史とともに、そのアートシーンはヨーロッパ諸国とは大きく異なるからです。私たちが直面している問題もまた同様です。”レジリエンス”というテーマ自体も、私たちには馴染みのないものでした。(確かにとても重要なトピックです。日本はまだそこに触れるに至っていないだけです。)」

このオンライン・トークは、YouTubeで録画ビデオとして視聴可能です。海外の方々にも視聴いただけるよう、国際的な文化ネットワークを通しても配信していきたいと考えています。

Online-Talk ©︎Pochen

シンポジウムの一環として、日本のコンテンポラリーカルチャーを若いオーディエンスにより身近に感じてもらうことも重要な狙いでした。そこで、日本のDJでありミュージシャンでもあるKen Okuda氏をパーティーに招待しました。彼は、経験豊かな日本のエレクトロニック・ダンス・ミュージックのコレクターであり、セレクターでもあります。このDJパーティーには多くの若者が参加しました。その夜、クラブにはおよそ250人のゲストが集まりました。Okuda氏とは今後も連絡を取り合いたいと思っています。彼は今年の年末には、さらなるリサーチのために来日する予定です。

年末はケムニッツ文化センターにて日本人ミュージシャンMidori Hirano氏のコンサートが開催されました。Hirano氏は音楽家であり、作曲家、プロデューサーとしても活躍しています。幼少の頃からピアノを習い始め、それをきっかけに、後に大学でクラシックピアノを学びました。そのため、ピアノ、弦楽器、ギターなどのアコースティック楽器の使用を基本としながらも、実験的で、絶妙な電子音響処理とフィールド・レコーディングによるモダンなデジタル・サウンドを織り交ぜています。今年末までのベルギーとドイツでのコンサートに加え、2024年1月には大阪、京都、東京での公演が予定されています。

Live Concert ©︎ Peter Rossner

Midori氏のケムニッツへの招待には個人的な背景もありました。数年前、彼女はケムニッツのエレクトリック音楽レーベル、RASTERから数曲をリリースしています。今回ケムニッツでようやくその時の仕事仲間や知人に会えたことは、彼女にとって大きな喜びでした。ケムニッツでのコンサートは大好評で、100人以上のゲストがコンサートに参加しました。コンサート中のビデオ技術の使用も特に高く評価されました。アーティスト、Kaliber16は、ライブのビジュアルで彼女のピアノ曲に芸術的な伴奏をつけました。

2024年1月には、アグニェシュカ・クビツカ・ジエドゥシツカがポッヘンチームの一員として日本でのリサーチ旅行を予定しています。現地で他のアーティストと会うかどうかは、事前に彼女と相談します。ポッヘンでは、2024年9月のビエンナーレに日本のアーティストを招待することも計画しています。現在、アーティストのAki Inomata氏と池田亮司氏のスタジオと連絡を取っています。2024年の初めには、彼らと綿密な話し合いに入りたいと考えています。