「The Mountain of Sadness: Return of The Souls」in 弘法寺

ビルギット・クラスゴー|ヴェルデンスルム アーティスト・建築家

パフォーマンスインスタレーション『The Mountain of Sadness: Return of the Souls』は、私の『VERDENSRUM(ヴェルデンスルム*)』シリーズの中の日本シリーズの一部であり、日本の霊山をテーマにしています。このインスタレーションは、青森県にある荒涼とした火山・恐山の風景にインスピレーションを受け、仏教の宇宙論に於ける、冥界への入り口を象徴しています。

 

作品背景・準備期間及びオープニングについて

2024年初めに青森県立美術館で展示されたこのインスタレーションは、『地獄の源』、『天国の湖』、そして『慈悲の女神』に着想を得たタブローで構成されており、映像、イメージ、光と音の効果を用いて制作されました。このタブローでは、故・鶴山欣也氏**と神秘的な雪の精霊・雪女、そしてその他の還ってきた魂との予測不可能な出会いの物語が語られました。

作品全体は2023年にデンマークのオーフスにて、次のメンバーによって制作されました。演出家のウィリー・フリントが演劇コンサルタントを務め、音響制作のアシスタントとしてオスカー・バルンド・イェスペルセンとソフィー・バルンド・イェスペルセンが参加しました。オスカーが音響制作、ソフィーは雪女を担当しました。

日本での作業は、青森と津軽での準備と設営のフェーズとして10日間を要しました。エーアイサイン が監督した施工の前に、関係者全員による作業についての十分な話し合いが持たれました。打ち合わせの場には、メンバーたちと理解を共有する為、私が持参した設営プランと模型を利用しました。設営作業は5日以内に完了し、日本の職人たちによって細心の注意を払って作業が行われました。進んで作業への参加を申し出てくれた福士氏と一緒に作業進捗を見守り、共に調整を加えながら作業を進める機会を得ることが出来ました。

The Mountain of Sadness: Return of The Souls. Performance in the installation © Hirofumi Kaneko

弘法寺、及び全ての関係者の方たちが作品の出来上がりに非常に満足しているようでした。私自身としては、作品の細部に至るまで全て成功したことに特に満足しています。大型絵画のパネルを含むインスタレーションは、寺の主要な場所である厳かな雰囲気の本堂と見事に調和していました。展覧会は9月1日にスタートし、寺の参拝者や来場者が絶え間なく訪れ、私自身を含む青森県内の約10人のビジュアルアーティストや、寺のネットワークやコラボレーターが参加しました。また、今年の初めに青森県立美術館での作品展示に訪れたリピーターや、他のアート愛好者たちもいました。

 

展覧会でのパフォーマンス

本展のハイライトは、弘法寺の秋季例大祭の一環として行われた舞踏家・福士正一氏のパフォーマンスでした。福士氏の隣には、9歳の舞踏家・カイとフルート奏者・HIROMASA氏が出演し、「冥界」(設置されたインスタレーション)に入り込み、蘇る魂たちと融合しました(本作品の物語)。私にとって、インスタレーション、パフォーマンス、衣装、そして寺の内装が、美的にも内容的にも素晴らしい調和を見せ、観客たちからも非常に好評でした。例大祭が続いた2日間、弘法寺は活気に溢れ、様々なプログラムが行われました。本パフォーマンスの他にも、火渡りやその他の秘伝的な仏教儀式が行われました。

 

制作チーム

本プロジェクトは、弘法寺(白戸旦実)、正ちゃんダンス(福士)、エーアイサイン(石澤暁夫)、そしてヴェルデンスルム(私)とのコラボレーションです。互いに知り合いである地元のコラボレーションパートナーたちとチームを組むことが出来たことは、プロジェクトにとって素晴らしいことでした。全てが円滑、且つ非常にプロフェッショナルに進められ、さらに多くの新しいアーティストネットワークが生まれました。副住職の白戸氏とのインタビューも行われ、私自身も参加し、青森県総合社会教育センターの情報誌に掲載されました。

The Mountain of Sadness: Return of The Souls. Still image © Birgit Kjærsgaard

国際芸術センター青森でのレジデンスプログラム。新しいプロジェクトとその可能性。

展覧会会期中、私は国際芸術センター青森で3週間のレジデンスプログラムに参加しました。滞在中に、『悲しみの山』物語の最終章のコンセプトを書き上げ、『悲しみの山ー世界の終わり』と題しました。さらに、青森出身のダンサー、川村智子氏と新しいコラボレーションを結成し、恐山での撮影も行いました。

その他のアーティストたちとも知り合う機会があり、鶴山欣也氏の友人である写真家の岩根愛氏との出会いがありました。チーフキュレーターの慶野結香氏と共に、弘法寺での私のインスタレーション作品と『津軽のアートをお寺から』展を体験してもらう為、津軽へ足を伸ばしました。街の中心地での長い熱帯夜に、岩根氏と互いのアート作品についてアイデアを交換し、アートセンターの素晴らしい施設やその壮大な周囲を楽しむ時間を持つことが出来ました。

 

今後の展望:『 The Mountain of Sadness: Return of the Souls』

『 The Mountain of Sadness: Return of the Souls』の巡回実現に向けた努力が、日本国内では京都芸術センター、国外では韓国・済州島などでも行われています。展覧会の実現の為に、国際芸術センター青森のキュレーターと、北日本や京都での展示の可能性についてコンタクトを取り合ったり、日本と済州島の鶴山欣也氏の友人とも連絡を取っているところです。次回プロジェクト『金属織物』に関するシパンゴとの打ち合わせが東京にて行われ、その後、幸運にも会場として京都のギャラリーヘプタゴンを見つけることが出来ました。

 

*『VERDENSRUM』シリーズは、アラブ、インド、中国などのアジア文化に焦点を当てています。本シリーズ内の日本を扱うシリーズは、日本文化の中でもとりわけ日本の曼荼羅や霊山に焦点を当てています。
**鶴山欣也氏は、2020年に亡くなるまで、『VERDENSRUM』の日本シリーズにおいて重要な役割を担ってくださいました。