コラム
ColumnCan I help you?(お手伝いしましょうか?)
ワン・デザイン・ウィーク2016が、2016年6月10日から19日にかけてプロヴディフにて開催されました。今年で第8回を迎えたワン・デザイン・ウィークでは、多様な視点やナラティヴ、そして観客が一堂に会し、共通言語を見出すプラットフォームとしてのフェスティバルの可能性に挑みかつ実現するという、分野横断的なアプローチがとられています。「Can I help you?(「お手伝いしましょうか?)」という問いかけは、デザイナーとデザイナーが奉仕する人々、すなわちすべての人との間の対話の糸口となるオープンな招待状としての意味合いを含んでいます。
ワン文化芸術財団主催による今年のフェスティバルは、プロヴディフ市とアメリカ・フォー・ブルガリア財団との提携と、プログラミスタとの民間提携に加え、プロヴディフ市財団・欧州文化首都2019からの寛大な支援のもとで実現しました。このプログラムは、現代デザインと、それが我々の暮らしや社会にもたらす多角的側面および影響を探究するものです。
この国際的なデザインとビジュアル・カルチャーの祭典の公式プログラムは、世界各国から著名な講演者を集めたプロフェッショナル・フォーラムと、展覧会やワークショップ、討論、講演、上映会、パーティー、ポップアップ・ストア、プレゼンテーション、地元食材バザー、子供向けプログラム、公共空間でのインスタレーションなどを盛り込んだより幅広い観客向けの公開プログラムで成り立っています。
今年は10日間にわたるフェスティバルのプログラム会期中、97ものプロジェクトおよびイベントが披露され、306名のブルガリア人と、4大陸31ヶ国出身176名の海外からの参加者が加わりました。当フェスティバルのプログラムには、専門家や一般客を含むデザインへの関心の高い31,672人の来場者が詰めかけました。なかでも、ワン・デザイン・ウィークでは、国際プロフェッショナル・フォーラムと称した、現代デザインおよびビジュアル・カルチャーの関係者ならびにこの分野に関心を持つ人々が集うカンファレンスを恒例的に開催しています。登壇者は、今年のテーマである「Can I help you?」を、独自の視点と実務経験を通じて解釈しました。デザイン界の各分野で世界的に名高い太刀川瑛弼氏(日本)、アダム・フォン・ハフナ―氏 (デンマーク)、アリス・ローソーン氏 (英国)、ピーター・マリーゴールド氏(英国)、スティーブン・セラート氏 (米国)、ピーテル・ヤン・ピーテルス 氏(オランダ)を迎え、多彩な6講演が開かれました。
フォーラムで行われたすべての講演で、様々なアプローチやトピック、文脈を交えながら当フェスティバルの主軸である「Can I help you?」という問いかけに答える試みがなされました。ワン・デザイン・ウィーク2016の会期中、太刀川瑛弼氏が登壇し、自らが代表を務める日本のデザイン事務所NOSIGNER(ノザイナー)について講演を行いました。太刀川氏は、先に述べた国際的な顔ぶれと並んで当フェスティバルの一大イベントのひとつである、プロフェッショナル・フォーラムの一翼をなしたのです。
太刀川瑛弼氏は新世代を担う日本人デザイナーの代表的存在で、自らの仕事を通じて社会変革をもたらす取り組みに注力しています。その取り組みは、日本を舞台にまったく異なる文脈で行われたもので、とても学ぶことが多く、興味深い講演となりました。デザイナーとしての経歴と並行して、太刀川氏は熱心な教育者、そして講演家でもあり、講演ではその側面が顕著に表れていました。ユーモアのセンスと誠実さが込められたそのスピーチには、学生のみならず、会場にいる誰もを奮い立たせる力がありました。太刀川氏のプレゼンテーションは、様々な問いかけを提起し、建築やデザインにおける自然と環境の重要性といった現代世界が生み出す深刻な社会問題に取り組む内容でした。
太刀川氏は、講演の冒頭で、2011年3月11日に日本で起こった地震と津波の出来事と、その40時間後に「OLIVE PROJECT」を立ち上げた経緯について述べました。このプロジェクトの主な狙いは、この災害直後に人々が生き延びる上で役立つデザイン的発想を集積することでした。震災から最初の1週間で100以上、3月末には100万を超えるアイディアが集まったことに、講演中誰もが驚きを露わにしました。
このトピックは、ブルガリアの日常生活や文脈とは非常にかけ離れたものでした。他国での成功例を知ることが、デザイン関係者のみならず一般聴衆を含めたブルガリア人観客の意欲を大いに駆り立てる結果となりました。専門家、デザインに関心を持つ人々、学生ら320名に上る来場者が、デザインの分野において興味深く、革新的な手法がたびたび述べられた太刀川氏のレクチャーを聴講しました。今日の世の中において重要なデザインの挑戦に寄せる壮大な熱意についても語られました。また太刀川氏は、国内外のデザイン関係者や秀逸な人材と交流する機会を持たれ、このことがご自身の将来のプロジェクトや協力関係に影響をもたらすものと確信しています。こうした意味で、当フェスティバルに太刀川氏が出席したことで得られた肯定的な成果は、将来に向けたコラボレーションの潜在的好機そのものであり、このことがこの討論のなかでプロヴディフ欧州文化首都2019という文脈で参加者に示されたのです。