コラム
Column神谷俊一郎アンサンブルがポルヴァで『ジッグラト』抜粋公演を披露!
神谷俊一郎氏と和太鼓アンサンブルが、ポルヴァを舞台に『ジッグラト』からの抜粋公演を披露しました!エストニアの南東端で開催されたこのコンサートは、欧州文化首都年を迎えたタルトゥのメインプログラムの一環を成す天上の祭典フェスティバルの締めくくりを飾りました。その称号は、文化首都を務める都市のみならず、小さな町や農村地帯にまで、世界一流のパフォーマーや世界各国の文化的豊かさを呼び込むきっかけとなりました。
エストニアの学園都市として知られるタルトゥは、2024年の欧州文化首都のタイトルを保有し、年間を通じて展開されるこの祭典に南エストニア全域を巻き込んでいます。これにより、市外の小さな場所がより大きな何かの一部となるという、類稀な機会が生み出されたのです。
欧州文化首都の光に照らされ、ひときわ明るい輝きを放ったそんな場所のひとつが、小さな町ポルヴァで、8月16日から25日までの2週間以上にわたり、天上の祭典フェスティバルが、一連の展覧会やコンサートなどにより、この町の文化的生活を豊かに彩りました。
メインの主催者であるポルヴァ文化センターは、オリエント東方音楽フェスティバルと協働しました。オリエントには、日本の和太鼓アンサンブルをはじめとする、極めて特別で他では観られないパフォーマーの数々をポルヴァに誘致するうえで、ご助力いただきました。パフォーマー神谷俊一郎氏率いるこの卓越した和太鼓アンサンブルは、ポルヴァ・フォーレストステージに登場しました。本フェスティバルのために特別に招聘されたこのグループは、作品『ジッグラト』からの抜粋を上演しました。そのパフォーマンスは、アンコールを求めて歓声をあげる観客から、10分にもわたるスタンディングオベーションを獲得しました。
本フェスティバルの共同主催者であり、オリエント・フェスティバルのディレクターを務めるティーナ・ヨキネン氏は、8月25日にポルヴァ・フォーレストステージで行われたクロージング・コンサートに寄せて、オリエント・フェスティバルは、まさしくビッグバンの栄誉を授かったと述べました。それ自体が全宇宙を内包するこのビッグバンは、驚異的な素晴らしい日本の和太鼓グループ、神谷俊一郎アンサンブルによってもたらされました。俊一郎氏のような太鼓芸能集団『鼓童』の出身者が、世界でも他に比類のない日本の伝統的な打楽器演奏技能を極めていることは周知のとおりですが、それでも、なかには他のアーティストよりも優れたアーティストが存在します。俊一郎氏は、芸術監督として、まさに突出した存在であると明らかに言えます。和太鼓の最高の伝統を厳密に踏襲し、彼が生み出したパフォーマンス作品『ジッグラト』には、その深遠なルーツが存在する一方で、グローバルな文化空間に漂う独立した自由な精神でありたいという志があります。聖書の内容に由来し、中東の伝承から芽生えたこの発想は、和太鼓芸術の正確なストロークと、伝統的でありながらモダンなダンスで構成され、数々の従来的な境界を超えています。この若きアンサンブルリーダーは、極めて独自の芸術的表現を確実に見出し、大胆なまでにきめ細かな調整を施し、パフォーマーらの若さ漲るきらめきを失うことなく成熟した演劇ショーを創り上げたのです。
欧州文化首都タルトゥ2024では、「Arts of Survival(生存の芸術)」をスローガンおよびメインテーマに掲げていることから、『ジッグラト』の物語を和太鼓演奏の形式で上演するという発想のすべてが、この概念に完璧に合致していると言えます。全知全能の神までもが自ら生み出したあらゆる障壁に遭いながらも、人類が奇跡的に存在し続けていること以上に生存の芸術を象徴するものなどあり得るでしょうか。照明と舞台美術は、本公演の哲学的内容の意義を高めるうえで、アーティストらとともに効果を発揮しました。
和太鼓アンサンブルが、これほど文化的にかけ離れたテーマを深く掘り下げるという事実そのものだけでも注目に値しますが、その高い芸術的クオリティ、プロ意識、そして音楽的精度が、このアンサンブルをより傑出した存在にしています。
本公演が上演された森という環境は、作品に美しさを添えたと同時に、新たな難題を課しました。劇場で完璧な公演を上演することと、このように緻密に作り込まれた作品を野生の自然に溶け込ませ、双方が互いに恩恵を得るようにすることは、状況が全く異なります。このアンサンブルは、密集した蚊の大群に耐え忍ぶことから、黄昏から漆黒の暗闇になるまでの移ろいを最大限に活かすことに至るまで、初めて遭遇した自然環境を見事なまでに柔軟に役立てました。
舞台で繰り広げられる動き以外何も目に入らなくなるところまで観客を惹き込んだこのアンサンブルの力量は、実に称賛に値します。そもそも、エストニアの観客がおよそ10分も続くスタンディングオベーションで感謝の気持ちを表すことは、それほど頻繁に起こることではありません。このことから、私は本フェスティバル主催者の立場から、観客に加わらずにはいられませんでした。
その一方で、『ジッグラト』の公演のなかで、取り上げておきたい点がもうひとつあります。それは、ダンサー加藤おりは氏の演技です。おりは氏は、その演技スタイルについては間違いなく非常に日本的ですが、それと同時に、過度にモダンあるいは前衛的になることなく、驚くほど国際感覚に富み、かつ現代的です。彼女の動きは、身体的力とアクロバティック技術と高度なプロ意識を見せつけ、これに加えて彼女は、作品の内容に対する深い理解と音楽性を顕わにしました。おりは氏が自らの役どころを非一般的な環境に適応させた光景は、いかなる新たな予想外の物事をも快く受け入れる姿勢を同時に備えた、真の偉大な芸術的精神の好例と言えます。
総じて、神谷俊一郎氏の和太鼓集団と作品『ジッグラト!』は、確実に欧州文化首都タルトゥ2024のハイライトのひとつとなったということができ、私は、日本あるいは再び私達が主催するオリエント・フェスティバルなどで、将来の彼らの活躍ぶりや作品を見守っていくことをとても楽しみにしています。