コラム
Column欧州文化首都の世界へようこそ
欧州文化首都とは、1985 年に開始され、38 年にわたり続く、文化事業の1つです。都市の国際的な知名度の上昇、都市の文化に新たな命が吹き込まれる、観光産業の活性化などを目的にしており、現在では日本をはじめ世界 100 か国以上のアーティストが参加するグローバルな取り組みになっています。開催都市では 1 年を通して多様な文化芸術プログラムが行われ、世界中から観光客が訪れます。
ハンガリーは、2010年に南部のペーチが選ばれ、様々なプログラムが開催されました。本年、13年ぶりに西部のヴェスプレーム市・バコニ山地・バラトン湖を含むその周辺地域が欧州文化首都を務めることになりました。一つの都市だけでないことの理由として、その周辺地域にも文化首都の活動が広がる事が挙げられます。この地域の中心都市であるヴェスプレーム市は、ハンガリーの首都ブダペストから、鉄道に揺られること約 1 時間半。音楽分野におけるユネスコ創造都市に指定されていて、「音楽の街」として知られています。1916年から音楽専門学校があり、音楽教育も盛んであるほか、「ヴェスプレーム市合唱団」や「ギゼラ女声合唱団」など伝統ある合唱団も有名です。欧州文化首都で予定されているプログラムの中にも、音楽のイベントが多く、中でも「ヨーロッパ青少年音楽祭」には、日本の合唱団も参加予定です。また、バコニ山地とバラトン湖の玄関口であり、世界的な磁器工房のヘレンドへもバスで約20 分の場所に位置しています。
バコニ山地やバラトン湖も自然が豊かで、バラトン湖は中央ヨーロッパ最大の大きさを誇り、近くの温泉湖のへーヴィーズも有名です。更に、ワイン産地として知られるバダチョニもこの地域に属し、日本から訪れる方はまだまだ少ない地域ですが、一度行ったら虜になる、知られざる魅力に溢れています。
2023年、欧州文化首都が始まるにあたり、当館でどのようにご紹介するかを熟考し、ハンガリーの関係各所と調整の上、今回の展覧会「欧州文化首都の世界へようこそ」を実施する運びとなりました。本来は、ハンガリー・ヴェスプレームに行かないと体感できない世界を、東京・麻布で楽しむことができる本展覧会では、まず、写真家、トロツカイ・チャバ氏が撮影したバコニ山地や周辺地域の絶景や文化を伝える写真が、パネルで展示されています。トロツカイ・チャバ氏はハンガリーで有名な雑誌のフォトグラフィーの分野で 30 年以上活躍し、コンテストでの入賞歴やアワードの受賞歴を持つフォトジャーナリストです。長年バラトン高地を「放浪」し、よく知られている場所もそうでない場所も写真に捉えてきましたが、これらの作品は、今回の展覧会で初めて展示され、更には日本で撮影予定の作品を加えた上で、本年 6 月に 2023 年欧州文化首都のヴェスプレーム市でも展覧会が開催される予定です。
次に、ヴェスプレームで活躍する、陶芸家ネーマ・ユリア氏の作品をお楽しみいただけます。ネーマ・ユリア氏は、日本の伝統的な薪窯焼成の美学の実践者、そして研究者として知られていますが、日本で見つけたインスピレーションに導かれ、地元ハンガリーの粘土を使った陶芸表現を追求しています。彼女はこの初夏、日本の陶磁器産地である岐阜県に滞在し、現地のアーティストたちと土や素材を通じた交流を行う予定で、土という世界共通の言語を通して彼女が試みる文化交流は、地球や自然環境への意識と感謝を共有するものでもあり、欧州文化首都の幅広い価値観を世界に広めています。
そして、床には、ヴェスプレームと周辺地域の巨大な地図を展示。その上を歩けば、欧州文化首都に行ったつもりに…なることができるほか、地図上の地名やみどころを写真と文章でご紹介する写真パネルも展示されているため、見比べながら知識を深めていただけます。
3月30日に開催された開会式では、欧州文化首都ヴェスプレーム・バラトン2023組織団体の代表取締役マルコビチ・アリーズ 氏をはじめ、合計三人の関係者をお迎えし、プレゼンテーションと資料でメディア、旅行社、国際関係の機関、本年のプログラムに参加予定の方々、一般の出席者の方々に地域の紹介や、本年のプログラムの詳細をご紹介しました。更には、レセプションを行い、地元のワインや、ハンガリーグルメをお楽しみいただき、盛り上がる中、幕を閉じました。
展覧会の会期中には、ネーマ氏とトロツカイ氏共に来日を予定しています。ネーマ氏は、古くから焼き物の街として知られる岐阜県多治見市の岐阜県現代陶芸美術館で4月21日から始まる「やきものにうたう:ハンガリー現代陶芸展」にも出品され、来日は5月下旬を予定。トロツカイ氏は、 6 月にヴェスプレーム市で開催予定の展覧会に向け4月中に来日し、撮影を行います。
本催しを通して、欧州文化首都ヴェスプレーム・バラトン2023の発展、知名度の向上だけでなく、二人の実力ある芸術家の作品によって、日本とハンガリーにおいてそれらが多方向から深みを持って普及される事が期待されます。