叶いつつある陶芸の夢

ガンヴォー・アニタ・タングラン|陶芸家 ロクヴィカ・ポルセレンスファブリークAS創設者

すべては、私の母が抱いていた夢に始まりました。

私と同じく陶芸家だった母は、いつかロフォーテンに日本の窖窯(あながま)を築くことが自分の願いだと私に語ってくれました。母は、この工芸とその無限の可能性や、数多く存在するジャンル、そして世界各地の郷土の陶芸文化の魅力を私に伝えてくれました。私達は、自分達の想像上の窖窯についてよく語り合ったものです。

悲しいことに2017年に母が他界し、そしていつしかこのプロジェクトの実現を目にすることが、私にとってこれまで以上に大切なこととなりました。ボードーが2024年の欧州文化首都になったことを機に、アークティック・アナガマ・プロジェクトを立ち上げる絶好のチャンスをもたらしてくれたのです。ロクヴィカ陶磁器工房は、EU・ジャパンフェスト日本委員会とヴェストヴォーゴイの自治体からのご支援をいただき、2023年11月に備前を訪問しました。私達の主な日本の連絡窓口である熟練の陶芸家、澁田寿昭氏が備前で活動する彼の仲間を数名ご紹介くださり、私達は数々の窯を見学し、この魅力深い陶磁器の伝統について学びました。私達はこの滞在中に、2025年夏に私達の窯造りを手掛けてくださる日本人チームを無事に編成することができました。

Toshiaki Shibuta and Takuma Watanabe demonstrating traditional Bizen ceramic techniques in workshops held at Rokkvika Porslenesfabrikk in Lofoten, Northern Norway © Rokkvika Porselenesfabrikk

2024年8月、アークティック・アナガマの設計者であり築窯のリーダーを務める澁田寿昭氏が、陶芸家仲間の渡邊琢磨氏とともにロフォーテンを訪れました。彼らはロクヴィカ陶磁器工房で地元の陶芸家やアーティストに向けたワークショップとプレゼンテーションを行い、備前土と伝統的技法を実演し、窖窯焼成の技について説きました。言葉の壁の問題があったことから、澁田氏と渡辺氏は、口頭のプレゼンテーションを補完するための書面の教材や、窖窯焼成のプロセスを伝えるビデオをご用意くださいました。ろくろを前にした澁田寿昭氏は、自らの手に解説を委ね、真の匠の技を披露しました。

アークティック・アナガマは、この種としては初めてノルウェー北部で築窯される窯となることから、地元地域内外の陶芸家に恩恵をもたらすことをねらいとしています。陶芸家らが招かれ、自らの作品の焼成に参加してもらう一方で、陶芸を学ぶ学生を招き、窯の見学と備前焼の薪焼成の技法について学んでいただく予定です。

また私達は、この機会を利用し、一般市民に向けてアークティック・アナガマ・プロジェクトを紹介するプロモーションイベントを地元の文化センターで開催しました。このイベントには、30名を超える方々が出席し、また本プログラムの一環として、渡邊琢磨氏によって執り行われた伝統的な茶道もご体験いただきました。多数の出席者が、本プロジェクトの最新情報のフォローや、必要に応じたボランティア参加への登録を行いました。アークティック・アナガマ・プロジェクトが、地元コミュニティからの熱意や参加を集め、それがこの工芸に対する高い関心や知識へと導く入り口となるよう私達は願っています。本プロジェクトの最初の公開プレゼンテーションを経て、私達は、この点について達成できるものと確信しています。

Takuma Watanabe performed a tea ceremony for those attending the presentation at Meieriet Culture Centre © Rokkvika Porselenesfabrikk

このワークショップおよびプレゼンテーション週間には、再びEU・ジャパンフェスト日本委員会とノルウェー手工芸協会、そしてノールラン県議会からの寛大なご支援を賜りました。私達の日本の仲間達がロフォーテンを訪問したことと並行し、私達は、澁田氏と渡辺氏が二人の僚友を連れて再訪し、築窯を行うという、来年の最も重要な出来事に向けた計画を引き続き進めました。そして窯は乾燥焚きされ、自分達の作品ならびに同地域の他の陶芸家の作品を窯詰めし、初の窯焚きがなされます。その後に、展覧会が開かれる予定です。

日本での初顔合わせとその後のロフォーテンでの再会を経て、私達は単なる知人や陶芸家仲間を超えた関係となりました。私達は親友となったのです。工房で長い時間をともにしながら、互いに学び合い、私達のものづくりや芸術的発想について話し合えたことは、実に刺激的なことでした。輸入粘土を主に使用する陶芸家として、郷土の粘土を仕込み、それを用いて制作することへの備前焼の陶芸家のこだわりを学んだことにより、私は、地元ロフォーテンの粘土の場所を特定し、研究するプロセスを開始するきっかけを得ました。澁田氏と渡辺氏が粘土サンプルを採取する実地見学にご同行くださり、彼らの滞在中に焼成テストを計画しました。来年の夏に窖窯の最初の窯焚きが完了した暁には、ロフォーテンの粘土で制作した作品が窯入りすることと思います。

澁田氏と渡辺氏が日本に帰国する際、お二人からのご厚意で、日本から持参した美しい備前焼の作品の数々を贈り物として頂戴しました。そして私もお二人に、いくつかの自分の作品をお贈りすることができました。私達は連絡を取り合い、本プロジェクトの次なるステップを計画しているところです。

母の夢が叶おうとしています。このことが、私をとても幸せな気持ちにさせてくれるのです。