池田亮司、エストニアの科学と歌声にインスパイアされる

ヘレ・プリイメッツ|タルトゥ2024財団 欧州文化首都タルトゥ2024プログラム・ライン・マネージャー

202311月、日本人アーティスト池田亮司氏がエストニアでレジデンシープログラムを行いました。この滞在について、池田氏本人、エストニアのパートナーやタルトゥ2024チームも大成功だったと高く評価しています。

エストニアのパートナーであるエストニアフィルハーモニー室内合唱団(EPCC)やタルトゥ大学ゲノミクス研究所の科学者たちとの直接顔を合わせたミーティングは、池田氏が制作する2つの新作の開発において極めて重要な役割を果たしています。1つ目の作品は、科学的データに基づき、それにインスパイアされたオーディオビジュアル・インスタレーション。2つ目はEPCCとのコラボレーションによるサウンド・インスタレーションです。これらの作品は、2024111日〜202532日まで、エストニア国立博物館で開催される池田氏の個展の一部として展示される予定です。この個展は、欧州文化首都タルトゥ2024のメインプログラムのハイライトのひとつです。

Ryoji Ikeda presentation to the Estonian Philharmonic Chamber Choir ©︎ Hele Priimets

EPCCが彼らのタリンにあるリハーサル室で池田氏とのミーティングを行い、そこに指揮者のトヌ・カリユステ氏も出席することを申し出てくれたことは素晴らしいことでした。ミーティングでは、池田氏がアーティストとしての彼自身についてプレゼンテーションを行い、今回のプロジェクトの動機とコンセプトについて話しました。その後、有意義なディスカッションと意見交換が行われました。彼が提示したように、サウンド・インスタレーション制作の鍵となるアイデアは、エストニア語の母音を作曲のための音として使用するというものです。EPCCは、エストニア語の9つの母音(a、e、i、o、u、õ、ä、ö、ü)をそれぞれ女声と男声で別々に録音したデータを、池田氏に送ることに合意しました。ミーティングでは、池田氏の個展に向けた一連の作業の一環として行われるメール交換やオンライン・ミーティングに加え、池田氏とトヌ・カルユステ氏がEPCCの歌手たちとともにワークショップを行うため、直接会って行うミーティングも近いうちに開催する必要があることが明確になりました。参加者たちの過密スケジュールのため、ワークショップは3月中旬より前に開催することはできませんが、正確な日程については、現在、当事者間で合意されています。

タルトゥ2024チームは、ゲノミクス研究所の副所長であり、エストニア・バイオセンター長、また考古遺伝学の教授でもあるクリスティーナ・タンベッツ教授をはじめとする数名の科学者が、多忙を極めるスケジュールの合間を縫って池田氏とのミーティングの場を持ってくださったことを非常に光栄に思っています。ゲノミクス研究所訪問の際、池田氏が面会を希望したのがクリスティーナ・タンベッツ教授でした。池田氏とタンベッツ教授は、2022年6月、池田氏の前回のタルトゥ訪問で初めて会っています。池田氏は教授との間に良好な関係を感じていて、タルトゥ2024チームが彼女の都合を確認するために教授に連絡したところ、池田氏からの連絡を光栄に思うと同時に、池田氏とのミーティングのために喜んで丸一日スケジュールを空けておくとの返事をいただきました。ミーティングに参加されたその他の科学者の方たちは次の通りです。アレーナ・クシュニアレヴィッチ博士、レティ・サーグ博士、モニカ・カルミン博士、エリック・アブナー博士。すべての科学者が綿密で示唆に富むプレゼンテーションを行い、それぞれが取り組んでいる研究を紹介しました。このような内容の深いプレゼンテーションと、池田氏が研究開発機関に実際に足を運ぶことは、ゲノム研究所で集められたデータの量、対象範囲、そしてその本質を理解するための不可欠の要素です。また、池田氏がオーディオビジュアル・インスタレーションのコンセプトを紹介し、科学者たちは非常に感銘を受け、自分たちが貢献できることに胸を躍らせていました。次のステップは、科学者たちがチーム内でどのデータセットが最もふさわしいかを話し合い、池田氏に連絡を取って関連資料を共有することです。タンベッツ教授はミーティングの最後に、池田氏がタルトゥ滞在する際にはゲノミクス研究所訪問をいつでも歓迎すること、また科学者たちは、オンライン・チャンネルを通じてミーティングする体制も整っていることを池田氏に伝えました。

Ryoji Ikeda and Tartu 2024 team assessing exhibition site in Estonian National Museum ©︎ Sille Talvet-Unt

幸いなことに、池田氏は展示会場であるエストニア国立博物館を訪れる時間も十分にありました。彼は以前にも同博物館を訪れていましたが、日が経つにつれて、展覧会に関するすべての計画やアイデアがより具体的になっており、同博物館で働く人々やタルトゥ2024チームのメンバーにとって、アーティスト本人と一緒に関連する事柄を検討する良い機会となリました。併せて、池田氏がアーティスト・トークとインタビューを1回ずつ行うことが合意され、タルトゥ2024チームはこれを大きな成果と捉えています。博物館での打ち合わせは、テクニカルライダーの設備に関する明確な指示など、他にどのような細部を確実に修正する必要があるかを理解するためにも必要なものでした。博物館と池田氏のチームと協力しながら、タルトゥ2024は、展覧会のコミュニケーション・マーケティング戦略についても進めていきます。

タルトゥ2024チームは、202311月の池田氏のエストニアでのレジデンシープログラムの成果に満足しています。EPCCとゲノミクス研究所で働く科学者の双方が、このような綿密で長いミーティングを積極的に開いたという事実は、彼らのプロジェクトへの関心と貢献への意欲を明らかに示しています。言うまでもなく、池田亮司氏は日本を代表するビジュアル・アーティストであり、世界的に高い評価を得ているミュージシャンであり、その彼とコラボレーション出来ることはこの上なく名誉なことです。