直接対話にて見えてきた未来のあり方〜実現可能な目標設定の重要性

島本 裕充|千田パンフルート合唱隊 代表

私が最初に驚いた事は出発時の隊員の表情と帰国到着時の表情の違いである。隊員の表情には「自信に満ち溢れた明らかな成長の跡が見られる表情」であった。

この表情に接した時、このたびの訪問が成功であった事を確信した。

2020年このたびの欧州文化首都セルビア共和国 ノヴィ・サド並びにルーマニア ティミショアラ訪問のお話を頂いてから、実際の訪問実現まであしかけ3年かかった。その間数多くの困難や問題に対応してきた。一時は千田パンフルート合唱隊の存続自体が問われている事態に陥った時期もあった。

この様な困難な状況の中、何度もくじけそうになったこともあったが、私は代表として諦める事は決してしなかった。もともと千田小学校合唱隊という学校内の課外活動からスタートした団体であるため、保護者や地域の認識は「学校教育の一環である」という認識が根強く、団体の運営資金捻出にも当初から苦労をしていた。

そこにコロナ禍によって、学校内の音楽室が使用できなくなり、練習会場を探し回る日々が始まった。その様な中で「千田小学校合唱隊」から「千田パンフルート合唱隊」と改名し、隊員資格対象を広島市内在住の青少年全てに広げた2020年に、このたびの欧州文化首都セルビア共和国 ノヴィ・サド並びにルーマニア ティミショアラ 訪問のお話を頂いた。結果論と言われるかもしれないが、このお話が千田パンフルート合唱隊にとって救世主であった事は間違いないと感慨深く思う今日この頃である。

前置きが長くなってしまったが、このたびの訪問で一番強く感じた事は「直接対話:直接交流の重要性」である。コロナ禍により、時代はIT化が進み、リモートでの対話や交流が社会全体を見ても多用される様になってきた。ITツールは確かに利便性に優れ、私はそれを否定するわけではない。

しかしながら、音楽はその場で、リアルタイムで、全身の五感(あるいは六感)を使って感じるものであると思っている。そのため、千田パンフルート合唱隊の演奏に限らず常に演奏においては生演奏にこだわってきた。

この事はこのたびの訪問で証明されたと考える。コロナ禍の中、オンラインにて海外との交流を別の主催団体の紹介で行ったことがあった。確かに海外との交流を行ったという事実は残ったが、それ以上の成果は無かった様に感じる。

International Youth Concert in Novi Sad ©︎ Senda Pan Flute Choir

このたびの欧州文化首都セルビア共和国 ノヴィ・サド並びにルーマニア ティミショアラ訪問はまるで異なる異次元のものである。国際青少年音楽祭はもちろんのこと練習やリハーサル、そして交流時に演奏した音楽全てが私にとって五感を全て刺激するものであり、私にとって「LiveでありLife」であった。12日間の毎日が充実した刺激的な日々であった。65歳の私がこれほどまでに刺激を受け人生観や生き方まで変わったのであるから、私よりも若い隊員:青少年にとってはどれだけ貴重な体験をする事が出来たかは言うまでもないと確信している。

このたびの欧州文化首都セルビア共和国ノヴィ・サド並びにルーマニア・ティミショアラ訪問で直接感じた事のもうひとつに、現地の人々の思いやりと優しさが挙げられる。隊員たちは現地の環境に対応しきれず、次々と高熱を発症した。幸い重篤な感染症では無かったものの、現地の受け入れ学校やホームステイ先や現地事務局の方々に多大なるご迷惑をおかけした。心からお詫び申し上げると共に、心温まる丁寧な対応に心より感謝申し上げる。現地の全ての方は、隊員を思いやりと優しさにあふれた対応をして頂いた。もし、広島で現地から青少年の団体をお迎えして、今回の様な状況に陥った時に、この様な誠意あふれる対応が取れるかと何度も現地で考えさせられた。誠に感謝の念に絶えない。このたび現地にて感じたノヴィ・サドとティミショアラの人々の思いやりや優しさを直接感じたからこそ、私は現在セルビア共和国やルーマニアの人々が激動する世界情勢の中でどの様に考え、どの様に行動しようとしているのかを真剣に考える様になった。私の中でのこの様な変化は、直接現地の人々と思いを共有し、交流をしなかったなら生涯起こる事は無かったと感じる。

世界に目を向けてみると刻々と変わる世界情勢、地球温暖化に伴うと思われる気候変動、まさに人類に対して試練と決断の時を突きつけられていると言っても過言ではないと感じる。

世界に山積する問題にひとりの人として何ができるかと思われるかもしれない。しかしながら、諦めては全てが失われることになる。今ひとりの人として出来ることをこのたびの欧州文化首都セルビア共和国 ノヴィ・サド並びにルーマニア ティミショアラ訪問で私は学ぶ事が出来たと思っている。

私が出来る事:なすべき事はひとりでも多くの次代を担う青少年に「直接対話:実際に自分自身がより多くの人々と対話し共感・共有を体験させる事」だと思っている。まさにこのたびの欧州文化首都セルビア共和国 ノヴィ・サド並びにルーマニア ティミショアラ訪問が「スタート地点に立てた」と実感している。ひとりでも多くの次代を担う青少年により多くの人々との直接交流を実現させる事を支援していく事が私に課せられた使命だと感じる様になってきた。

私は政治的な影響力も無く、経済的な影響力も無い無力な人間である。だからこそ出来る事はまだまだたくさんあるのでは無いだろうか。次代を担う青少年に直接対面で、直接現地渡航にてより多くの人々と親しくなる体験の機会を作れる様、支援していく事が私に与えられた使命であると感じている。

Project report and concert ©︎ Senda Pan Flute Choir

終わりに、このたびの渡航で常に私に助言並びに精神的な支えを頂いた隅 修三 実行委員長、古木 修治事務局長、広島に直接何度もお越しいただき助言を頂いた箱田 さおりプログラムディレクター、長谷川 祐子総務ディレクター、広島市企画総務局秘書課の皆様、広島市市整備局緑化推進部緑政課の皆様、5月リトアニアでお世話になった原 礼子先生、様々な方のおかげで千田パンフルート合唱隊の欧州文化首都セルビア共和国 ノヴィ・サド並びにルーマニア ティミショアラ訪問がかなったと心より感謝するとともに厚く御礼を申し上げる。