国際青少年音楽祭への道のり ~実現可能に向けて指導者の熱い思い~

河俣和子|Sorciere & Sorciere Jr. 指揮者

私たちSorciere & Sorciere Jr.がエストニアの合唱団から正式なお誘いをいただけたのは、私が2024年6月19日から25日の一週間エストニアに渡航させていただいた中から生まれました。

伊勢市出身のピアニスト西井葉子さんが伊勢市立五十鈴中学校合唱部の活躍ぶりや、私自身のことをEU・ジャパンフェスト日本委員会事務局長の古木修治さんに紹介してくださいました。2023年3月、古木さんからヨーロッパ各地で開催されている国際青少年音楽祭に、私の指導する五十鈴中学校合唱部の参加についてお誘いをいただきました。

2018年マルタで行われた国際青少年音楽祭に伊勢少年少女合唱団が参加されたことは知っていました。ただ、自分の合唱団をヨーロッパへ連れていくためには実際、ヨーロッパへ行って、自分の目や耳で確かめてみたいと思いました。そこで私は、2023年秋、広島からセルビア共和国へ行く千田パンフルート合唱隊に同行させていただくことにしました。ノヴィ・サドで開かれた国際青少年音楽祭でのナイチンゲール合唱団と千田パンフルート合唱隊とのワークショップ・交流会・リハーサルなどは、国や民族としての考えも違う中、お互いの合唱団が心を開き、音楽を通して身も心も解放されていく姿が目に焼きつきました。

この体験によって、エストニアに五十鈴中学校合唱部も連れていってやりたいという思いが強くなっていき、EU・ジャパンフェスト日本委員会事務局に、「私、やります。五十鈴中学校合唱部を一緒にヨーロッパへ連れて行きたいです。」と伝えました。しかし、五十鈴中学校の管理職から、五十鈴中学校は公立中学校だから海外に合唱部を行かせることは難しいと言われました。このことから、2024年中に五十鈴中学校合唱部をエストニアに連れて行くことは不可能となりました。それでも、若者たちに国際青少年音楽祭で新たな体験をさせてあげたいという思いは消えることはありませんでした。そこで、私自身が主宰する一般合唱団Sorciereのジュニア合唱団を新たに立ち上げればいいのではないかと思い、すぐに動き出し、Sorciere Jr.を立ち上げることができました。これで、様々な合唱祭にSorciere & Sorciere Jr. として参加することができるようになりました。

EU・ジャパンフェスト日本委員会の方々のご支援のもと、2024年6月19日~25日の期間でエストニアへ、下村愛、谷口政弘、松山仁美、鈴木美那の4人とともに渡航することになりました。EU・ジャパンフェスト日本委員会からも箱田さんが同行してくださり、エストニア国際青少年音楽祭の関係者の方々と会う機会を作っていただきました。その中でエストニアの国際青少年音楽祭においてSorciere & Sorciere Jr.と競演してくれる合唱団が二団体申し出ていただけました。

その一つは、「ラウルペサ合唱団」です。彼らの活動場所に赴き、指揮・指導・作曲をされている方々と時間を共有しました。約千人の合唱団を指導する先生方の多さに驚きました。お互いの合唱団の活動の様子を交換し合いました。その中で、2025年、温かく私たちを迎え入れて下さることを約束してくださりました。ラウルペサ合唱団が2024年エストニアソングフェスティバルinタルトゥに出演するのを見学に行きましょうとLisaさんからお誘いを受けその翌日現地に向かいました。一万人を超える出演者が集まり、各団体がステージに次々と並んでいく様子を見ていると、以前私はテレビで観たエストニアの独立の映像を思い出さずにはいれませんでした。暴力なき戦争、平和に向けて抵抗運動を広めるために人々は立ち上がり、結束して大きな勢力を形成していった「歌う革命」。二百万人を動員し、六百キロにわたって繋がった人間の鎖。そのような歴史をつむいできたエストニアの国をあげてのソングフェスティバルで時間も忘れ5時間にわたる合唱を見学させていただき、合唱に対する壮大な熱量に体中が熱くなりました。前日一緒に話をしていたラウルペサ合唱団がこのような大舞台で歌う姿に、さらにSorciere & Sorciere Jr.を競演させてあげたいと思いました。

もう一つの合唱団は、 「ETV Girls」です。私たちがその場所に伺うと、指揮者のサルヴェールさんが時間をとって、私たちに合唱団の歌声を披露してくださりました。あまりの美しい歌声に感動しつつも、こんなすばらしい歌声の合唱団とステージを共にすることは難しいだろうなと思いました。しかし今、五十鈴中学校合唱部がコンクールに向けて練習している曲、「清き流れの五十鈴の川を~無伴奏女声合唱による伊勢の木遣り唄~」(伊勢神宮のある地に流れる五十鈴川を、伊勢神宮を建てるための木をお木曳き車にのせて運び入れる様子を作曲家土田豊貴さんが作曲)の歌声を、サルヴェールさんはとても興味深く、楽譜を見ながら聴いてくださりました。結果、この曲がETVGirlsとの競演につながるきっかけとなりました。

これから二つの合唱団とつながりをもつために、日本の曲「ふるさと」、「通りゃんせ」、「シャボン玉」についても、作曲家、相澤直人さんに三部合唱での編曲してもらっています。2024年秋頃には出来上がってくるので、その時にまた、楽譜を共有していきます。

ひとりでも多くの次代を担う生徒たちに、実際に現地に渡航することで、そこにいる人々と直接交流し、共感・共有できる体験をさせてあげることが私に課せられた使命だと思っています。2024年12月にエストニアにもう一度出向き、二つの合唱団のみなさんに上記の3つの合唱曲を事前に紹介する機会がもてることを望みます。