コラム
Column[#KeepgoingTOGETHER] Vol. 56 船弁慶三体
1. オンライン配信を実施しての所感
これまで、舞台芸術、特に伝統芸能は、人々が集ってその場で体感し、演者とその時間を共有することが大切であると考えてきた。もちろん、「生」で舞台芸術を楽しむ体感は、他の何ものにも代えることはできないが、今回、新たにオンライン配信事業を行ったことで、これまでとは違った手法で、伝統芸能の魅力を発信することができるということを強く感じた。特に、1度限りの配信ではなく、アーカイヴによる配信を行うことで、世界中からいつでも、だれでもが見ることができ、また検索などによって偶然に、不特定多数の方に見て頂き、その魅力を知っていただけることは、大変有効で、大きな意味があり、今後も継続して取り組んでいきたいと強く思った。オンライン配信によって、これまでと違う楽しみ方や感じ方ができ、新たな感性や価値が生まれたように感じた。
新作英語講談「源平盛衰記の内 平知盛壇ノ浦の合戦の巻」
2. オンライン配信で得た成果と課題
日本だけでなく、世界の人々に見て頂けたことは大きな成果であった。英語の字幕と解説をつけたことで、日本の伝統芸能の魅力を多くの方に知っていただくことができ、大きな手ごたえを感じた。ただ、伝統芸能の演目に、英語の字幕をつけるのは、配信までにかなり時間と手間を要するため、同様の配信をしようと思っても、簡易に配信ができないことが課題として残った。
日本人の視聴者からも、字幕の英語がわかりやすいため、英語の方がかえって内容がよくわかったと大変ご好評をいただいた。
能「船弁慶」
3. 今後のご活動におけるオンライン配信の活用や展開について
今回のコロナ禍により、これまでオンライン配信されていなかった舞台芸術が次々に配信されるようになった。「生」で楽しむリアルとオンラインで楽しむバーチャルの関係をどのようにしていくのかが、今後、大きな課題となっていく。一度でも「生」の舞台をご覧になっている方は、バーチャルであっても「生」のリアルの感覚でバーチャルを楽しんで頂くことができるように思う。しかし、舞台芸術に携わる者として、いきなりバーチャルから始まった方には、やはり一度は「生」のリアルを体感してほしい。
「withコロナの時代」になって、舞台芸術もバーチャルを活用することで大きな可能性が開けるようになった。前向きにそう考えて、今後もオンライン配信に取り組んでいきたいと思う。シビウ国際演劇祭の総監督のキリヤック氏は、2020年の演劇祭を中止にはせず、オンラインでの開催とし、視聴者が100万人を超える大きな成功をおさめられました。キリヤック氏は、「我々には、未来を信頼し、我々を落ち着かせ、力を与えるために、これまで以上に、演劇、ダンス、音楽、文学などといったアートが必要である」と述べられています。世界の同じ空の下に、同じ思いの人たちがいる。その人たちとつながるためにも、国際相互理解を深め、世界平和へとつなげるためにも、オンライン配信を活用していきたいと、今回の事業を通して思いました。
文楽「義経千本桜 知盛幽霊の段」
<配信プログラム>
船弁慶三体
- 実施日:2020年6月12日~14日
- 内容:平安時代末期の武将・平知盛に焦点をあて、能、文楽、講談の中での表現方法の違いを楽しんで頂く公演。同じテーマで3種類の伝統芸能を上演することで、その差異や妙味を体感していただくことができる。
- 告知方法、使用した広報ツール:Facebook
- 使用した配信ツール:YouTube
- 視聴者の反応を得るために工夫した点:
・ハッシュタグをつける。
・配信を3回にわけ、各々を20分程度の内容にまとめ、ご覧いただきやすいようにした。
・英語の字幕ならびに各芸能の解説をつけ、海外の方にも楽しんで頂けるように取り組んだ。 - 視聴者数:1125 (As of 29 June)