コラム
Column生命体のように舞う全宇宙
日本のダンス作品を、欧州文化首都ヴェスプレームの公式プログラムの一環として、2023年DANCE インターナショナル・コンテンポラリー・フェスティバルで披露できたことは、非常に刺激的な機会となりました。過去数年間にわたり、本フェスティバルのプログラムでは、より数多くの国際的ダンス作品をお届けし、着実に増加をみせています。私達が日本人アーティストを招聘したのは今回が二度目で、一度目は、イヴェット・ボジク・ダンスカンパニーの作品『HA DÔ (波動)』で主役を演じた舞踏家の遠藤正氏でした。本フェスティバルの専門アドバイザーには、今年の被招聘者の候補について、いくつかの素晴らしいアイディアがありました。さまざまな作品に伴う多様な技術的ニーズをより明確に把握するため、私達は複数の異なるルートで交渉を開始しました。
最終的に、私達は、梅田宏明氏を抜擢した二つの理由に至りました。何より第一にいえるのが、梅田氏がコンテンポラリーダンスとデジタルアートを融合させる優れた代表者であることでした。本フェスティバルの多面的芸術性側面の強化に絶えず励む私達にとって、この要素は重要なことといえます。私達は、ダンスそのものだけでなく、演劇や音楽、サーカス、あるいは美術をより重視した作品を補完する要素として披露することをねらいとしているからです。二つ目の理由は、私達が当初考えていた他の日本の作品と比較し、彼の技術的要件をより容易かつ確実に満たすことができたためでした。
パフォーマンス作品のうちの一つに関する計画の変更を含め、妥協をしなければならなかった点が二つほどあったものの、交渉のプロセスや技術的な話し合いは比較的スムーズに進みました。私達は、梅田氏の二つのソロ作品を上演し、純粋にダンスを中心に据えた作品と、それよりもややデジタルアートというサポート役に頼った作品とのコントラストを生み出すことを当初から構想していました。後者として常に視野に入れていたのが『Intensional Particle』で、これは背景に一方向と床面にもう一方向の二つの角度に同時に投影されるプロジェクション映像が取り入れられた作品です。シンクロした二つの映像が、投影された光の線の中で全く苦を感じさせない動きをみせるダンサーのための、完全な没入環境的効果を生み出していました。彼が舞台セットとあまりにもぴったりと同期していたことから、光の動きを操作しているのは彼ではないかという錯覚が起こることが、観る者にとって至極自然なことに感じられました。もう一つの作品『while going to a condition』は、宏明氏が世界的成功を収めた最初の作品でした。本作は、いかに一人の人間が、舞台上で観客の注意を一身に集めることができるかを示した好例といえます。作品そのものは、完全な静止状態から次第に勢いを増しながら、展開するこの動きの弧が完成するまでの、段階的な動きが発展していく様子を表現しています。
梅田氏が、今年のフェスティバルに出演した他のダンスカンパニーと比べて異彩を放っていた一つの特色が、創作およびパフォーマンスのプロセスにおける彼の完全な自律性でした。彼は自らの作品のパフォーマーであるのみならず、振付家、音響デザイナー、照明デザイナーとして、終始一貫して作品を手掛けています。他のダンスカンパニーでは、音響や照明の技術者を同行させるのが一般的なアプローチであるのに対し、彼のツアーチームは、彼以外は制作マネージャーの田野入涼子氏のみでした。今回の場合、梅田氏が技術的なセットアップに加えて、舞台上の予めプログラムされたプロジェクション映像、照明、スピーカーなど、自ら指示していたため、こうした担当者は必要ありませんでした。私があえてこの情報を特筆したのは、ハンガリーでは、特により流動的なパフォーマンス作品の際、手動制御の照明や音響を操作するのがほとんどであるのに対し、宏明氏のソロ作品は、双方ともに極めて緻密に作り込まれており、技術的観点からこれらの完全自動化が可能となったという点を明らかにするためです。
フェスティバルでは毎回、コンテンポラリーダンスとそれに関連した芸術分野の言語を通じた多彩な自己表現法についての素晴らしい学びの機会を提供しています。今年も例外ではなく、私達は、EU・ジャパンフェスト日本委員会との連携を継続し、今後のフェスティバルにおいても、可能な限りの幅広いコンテンポラリーダンサーや振付家をご紹介し続けられるよう期待を抱いています。このジャンルは、エリート層の観客だけが楽しめるものではなく、人間の本質そのものの不可欠要素であると私達は断言します。音楽やダンスの原点を表現する可能性は無限大であり、ダンスと他の芸術分野の繋がりを模索するにあたり、現代的表現は多いに越したことはないのです。
DANCE インターナショナル・コンテンポラリー・フェスティバルの主催チーム一同を代表し、この場をお借りして、今回の協働の実現に携わったすべての皆さまに感謝申し上げるとともに、私達は、今後長年にわたって今回の成功を継続させていくことを切に望んでいます。