太古の知恵が未来を照らす ~Riddu Riđđu Festival(リドゥ・リドゥ・フェスティバル)~

小巖 仰|Harmony Fields

北極圏の玄関口ノルウェーのトロムソ空港から、さらに北へバスで約2時間半。たどり着くのは、Riddu Riđđu Festival(リドゥ・リドゥ・フェスティバル)の開催地Manndalen(マンダレン)。夏至に近いこのシーズンは、夕方だというのに太陽の光は日中と変わらず降り注ぎ、車窓から望む海岸線は原初の風景そのもので、その壮大さに胸を打たれます。

 

「沈まない太陽」 北極圏ノルウェーのManndalen午前2時

 

このフェスティバルに初めて参加したのは2013年。今回、実に11年ぶりの再訪を決めました。この期間、インターネットを通じて世界はグローバル化し、そして新型コロナウイルスのパンデミックを経て、大きな変化を遂げました。そんな時代の変遷を経て、リドゥ・リドゥがどのように進化しているのかを見届けるため、再びこの地を訪れることにしました。

「リドゥ・リドゥ」はノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアに住む先住民族サーミが中心となり、開催される国際的な先住民のフェスティバルです。1991年地元のサーミの若者たちによって始められたこのフェスティバルは、サーミ文化とアイデンティティを再び誇りに思い、外部に向けて発信するためのプラットフォームとして着実に成長してきました。今年で33年を迎え、世界中から先住民アーティストが集い、コンサートやワークショップ、セミナー、映画上映、ブックトーク、アート展、子供向けイベントや若者向けプログラムなど、多彩なプログラムを通じて彼らの文化と芸術が紹介されています。

2度の参加を通じて感じたことは、「サーミの太古から伝わる知恵や知識を、現代に生かしながら運営されているフェスティバル」であるということ。その結果、新たな形を生み出し続けるイベントに成長しているのです。そのポイントを紹介していきたいと思います。

 

若きリーダーが繋ぐ、サーミ文化のバトン
「Formidlerpris 2024受賞」 ディレクターのSajje Solbakkと理事長のBente Ovedie Skogvang  Photo: Riddu Riđđu Festivála

 

11年前と比べ、プログラムのさらなる充実と会場内の活気に圧倒されました。若い世代が中心となり、初期からの経験者たちはサポート役として支えています。特に印象的だったのは、2022年に25歳でディレクターに就任したSajje Solbak (サィイエ・ソールバック)。彼女のリーダーシップのもと、次世代のアーティストや観客にとっても重要な基盤となっていることです。こうしてサーミの伝統は新しい世代へと確実に移行しています。

他にも、前回見かけた小学生が母親となり子供と一緒に参加していたことや、会場で30回目のボランティア参加となるベテランスタッフに再会したことなど、継承を感じた例がありました。また、サーミ出身ではない若者たちが、サーミの伝統衣装であるGákti(ガクティ)を敬意を持って着用している光景も目にし、サーミ文化の魅力が広がり、新たな層にリーチしていることを感じました。

 

サーミから学ぶ平等の本質
「圧巻のロケーションのメインステージ」 ブリヤート共和国のNAMGAR (ゲスト:サキタハヂメ)

 

コンサートプログラムも多彩です。サーミのレジェンドであるMari Boineの力強いパフォーマンスに加え、新世代のサーミシンガーElla Marie、Emil Kárlsenや盲目のヨイク歌手GABBAのステージもありました。さらに、ペルーから参加した23歳のクイチャ族のRenata Flores、ニュージーランドのサモア系メタルバンド、カナダのイヌイット、モンゴル系の先住民族など、多彩なアーティストが出演しました。

さらに、会場には「NO PRIDE IN GENOCIDE」というメッセージが掲げられていました。これは「虐殺に誇りなどない」という意味で、現代社会の動きと重ね合わせたメッセージです。その他にも、ドラッグクイーンのパフォーマンスや、ロシア政府の権威主義に強く反対するアーティストPussy Riotの登場もあり、世の中の不平等に対してしっかりと「問い」を持つ姿勢が示されています。これらは1970年代後半のパンクムーブメントのような攻撃的な強さではなく、広い包容力を感じさせるものでした。サーミの人々が長い間、同化政策や抑圧に対抗して、明確に主張を発信し、ステップを踏み、権利を獲得してきたことが教訓となっていると感じました。

 

火の前では誰もが平等

「国際ミーティングは火を囲んで」

 

私は「リドゥ・リドゥ」に日本の代表者として参加しました。フェスティバルでは、アイスランド、ノルウェー、ウガンダ、カナダ、グリーンランド、ペルー、アラスカ、デンマーク、スロバキアなどから参加者が集い、日中からテントの中で火を囲んで連日国際的なディスカッションが行われました。特に、火はサーミにとって、単なる明かりや熱源を超え、精神的な象徴として共同体の中心を成しています。火を囲んで行われるデリゲートの会議も、この伝統に倣い、全員が平等に意見を述べ、自然な対話が促進される場となっていました。サーミ文化では、火の前では上下関係がなく、すべての人が同じ立場で意見を述べる権利があるという考えが深く根付いているのです。

個人的なエピソードですが、私は滞在中にロストバゲージのためスーツケースを受け取れませんでした。気温差もあり困難でしたが、その中でサーミの伝統的な方法、藁を靴下として使う知識を教わり、それに救われました。予期せぬトラブルが、かえって貴重な学びをもたらしました。

インターネットが一般的に普及し始めたのは約30年前。先住民族の暮らしを数千年と考えると、「たかが150分の1程度」です。これからAIも台頭してきて、世の中が加速度的に変化を続ける中で、古来の知恵に軸足を置いたこのフェスからは多くの学びがあります。日本古来の知恵についても、さまざまな考えが巡っています。

Harmony Fields 小巖 仰