ゲチョフォト国際イメージフェスティバル2024で二つの際立った親密性にみる反復ゲーム

マリア・ペテクカ|ベギハンディ文化友好会
キュレーター

ゲチョフォト国際イメージフェスティバルは、18年間にわたり、スペインのバスク地方ゲチョを舞台に開催されています。本フェスティバルは、世界各国の視覚芸術家からのさまざまなプロポーザルを本都市に持ち込み、毎年提起されるテーマを取り巻く現代的議論を確立しています。

ゲチョフォトの特徴は、公共空間が均質化や私物化に直面するなか、集いの場、相互認識の場、さらに実験や遊び、祝祭の広場としての公共空間(物理的およびオンライン)を急進的に擁護することにあります。このことから、本フェスティバルのプログラムの大半が屋外インスタレーション作品で構成されており、それらが写真と環境の結びつきを際立たせる一方、他方で一般市民とのより水平的かつ参加型の関係を生み出しています。

創設から18年の歴史のなかで、300を超える著名な国際的作家が参加し、その多くが評論家から高い評価を獲得しています。本フェスティバルは、ほとんどが無料で、集いの場、そして地域と国際のプラットフォームとしての構成となっており、経験や知識の交換し合う文化機関とアーティストと来場者のネットワークを創出して参りました。

第18回ゲチョフォト国際イメージフェスティバルは、6月6日から30日までの会期で開催されました。ビルバオ生まれのキュレーター、マリア・ペテクカ(バスク大学PV-EHU芸術研究博士)の指揮のもと、「Play」というアイディアおよびコンセプトを掲げ実施しました。昨年私達が提唱していたのが「Pause」、つまり一時停止しスローダウンすることだとするならば、今回のゲチョフォトでは、来場者にそれに逆行してもらい、別のボタンを押すよう働きかけ、「Play」のスイッチを入れたのです。こうして、スイス、日本、ウクライナ、フランス、アルゼンチン、イギリス、ブラジル、スペイン、ロシアなどの国々を出身とする22名のアーティストが、市内(その大半が屋外)で展覧会やインスタレーションのかたちで作品を披露しました。

Masahisa Fukase installation in Ereaga elevator © Getxophoto 2024/Maider Jimenez

日本からの参加に関してですが、ゲチョフォト国際イメージフェスティバルは、今回の目玉となった深瀬昌久氏のプロジェクト「洋子」と「窓から」、そして富安隼久氏の絶賛を誇るプロジェクト「TTP」という、二名の偉大な写真家の作品を迎える光栄に恵まれました。

前述の通り、本フェスティバルの主な特徴のひとつが、出会いと楽しみと内省の場としての公共空間を断固として守ることです。こうした事実から、複数の展覧会が公共空間を占有しました。深瀬氏と富安氏の作品シリーズは、エレアガ・エレベーターとサバラ公立小学校のフェンスの外側という市内中心の賑やかな二つのエリアで披露されました。ともに独特で絶妙に溶け込んだこれらの中心市街地の空間は、6月の1ヶ月間を通じて、活気溢れる屋外会場に変身しました。夏の訪れとともに、主要メディアの影響のおかげもあり、エレアガ・エレベーターの空間は、フェスティバル来場者とメディアの両方から最も注目を浴びる場所のひとつとなりました。(報道記事の切り抜きをご参照ください)

深瀬昌久氏「洋子」「窓から」

深瀬昌久氏のこの代表的な作品シリーズは、アルミ複合材ディボンド(寸法高さ0.6m x 幅0.4m)に印刷されたものが、設計、制作を経てエレベーターの上りと下りに設置され、展示されました。2メートルの金属製スタンドに支えられたこれらの写真は、移動中のエレベーターの内側からのみ見ることができました。乗車しながら、作品との親密な空間が生まれ、観客に、写真家とパートナーの洋子さんの日々の暮らしに没入していただきました。1974年、深瀬氏は、仕事に向かうため家を出る妻の姿を、東京の団地の自室の窓から毎日写真に収めるというルールを自ら設けました。

世界的に重要な新聞エル・パイス紙(スペイン)が、PHotoEspaña(マドリード国際写真・ビジュアルアートフェスティバル)とゲチョフォト国際イメージフェスティバルで披露された彼の作品についての特集記事のなかで、本展が取り上げられたことは、特筆すべき点といえるでしょう。来場者に関しては、少なくとも一万人もの人々に、この極めて特別なインスタレーション作品を楽しみいただいたと私達は推定しています。

富安隼久氏「TTP」

キャンバスに印刷され木枠(高さ1.90m、幅1.40m)に収められた13点の写真は、設計、制作を経て、サバラ公立小学校の外構フェンスに設置されました。富安隼久氏は、5年間にわたり、自らが住んでいたライプツィヒの学生寮の窓から望む卓球台を取り巻く日常を定点観測的に記録しました。卓球台は、洗濯物干し、エクササイズバー、雨宿り、さらにはベッドにまで変身しました。隼久氏は、反復を通じて、特定の公共空間の活用のあり方について問いを投げかけており、またこれらの写真が、子供達が毎日さまざまな方法で遊んでいる学校の校庭の外側に設置されたことで、彼らに物体を観察し、他の用途に活用してみるよう促していることから、ゲチョの事例に大変通じているといえます。

Masahisa Fukase installation during Getxophoto 2024 © Getxophoto 2024/Maider Jimenez

深瀬氏の作品と同様に、写真そのものと富安氏の作品シリーズの背景をなす逸話が、メディアからの高い関心を引き起こしました。全国紙の記事ならびにテレビやソーシャルメディアの投稿に取り上げられた、彼の姿を捉えたさまざまな写真がこのことを証明しています。

私達は現在、2025年6月の次回の開催に向けて準備を進めているところです。展覧会やインスタレーション作品、世界各国の作家に門戸を開く国際公募、ゲチョに赴き本フェスティバルを主に欧州のフェスティバル界に位置づける著名な専門家との対話、文化的エコシステムの強化を促す文化エージェントおよび機関との協働や、芸術的提案を一般市民により身近なものにする参加型プログラム内の多彩な活動を通じて、ゲチョフォト国際イメージフェスティバルは、今後も公共空間に息づき続けて参ります。同様に、本フェスティバルへの日本からの参加を維持していく意向です。

2025年にお会いできることを楽しみにしています!