目の見えない人と目の見える人のための写真ワークショップ

モリッツ・ノイミュラー|ArteConTacto プロジェクトリーダー

2024年2月15日から3月28日にかけて行われたTOKASレジデンシーの一環で、包摂的な写真ワークショップのための既存コンセプトがさらなる発展を遂げました。その成果は、後に3月15日から17日まで日本のトーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)で、そして2024年7月にはオーストリアのウィーン国立盲学校とバートゴイゼルンのオテロ・ゴイゼルンで披露されました。

この作品の出発点となったのは、私がオーストリア代表として招聘されたチュニジアでのEUレジデンシー滞在中に初めて制作されたプロトタイプでした。その方法論は、別プロジェクトの一部としてさらに発展し、参加型リサーチ、3Dプリントと、アートへのアクセシビリティに基づいたものとなっています。このプロセスにおける協力団体には、AIT(ウィーンのオーストリア技術研究所)とVRVis(仮想現実・視覚化技術研究センター)、そして千葉大学が含まれています。

東京での本ワークショップの主題である「文化的アイデンティティと多様性」を踏まえ、「オテロ・ゴイゼルン-未来・工芸・アート・文化協会」という団体との協働により、触覚レリーフが制作されました。こうして、フォトグラメトリーと3Dプリントといった革新的技術と伝統的工芸が一体となったのです。このプロトタイプは、オーバーエスターライヒ州の工芸作家の協力を得て、全参加者にとって「触れて感知できる」ものとなるよう、スウェルペーパー(熱膨張紙)やフェルト、木、皮革を用いたレリーフに姿を変えました。

欧州文化首都バートイシュル・ザルツカンマーグートとのコラボレーション
2024年7月16日から23日の会期で、バートゴイゼルン・スポーツクラブにて展覧会が開催され、誰もが触察でき、鑑賞することを容易とする写真体験をお届けしました。目の見えないアーティストと目の見えるアーティストの協働により生み出されたそれらの展示作品は、チュニジア、ナイジェリア、スペインそして日本で開かれたワークショップで制作されたものです。

本展は、文化的アイデンティティの側面にスポットを当て、私達が写真を通していかに自らを取り巻く世界を捉えるかについて探究しました。展覧会と並行し、私達は、あらゆる感覚で体験できる新しい写真を生み出すことを通じて本プロジェクトの継続を図るワークショップを開催しました。目の見える人と全盲あるいは目に不自由のある参加者とが手を取り合い、見事なまでに見た目を覆す写真の世界を探索するとともに、互いに学び合いました。その成果は、即座に展覧会に組み込まれ、またそれらは今後の展示でも披露されることになっています。

本プログラムは、欧州文化首都バートイシュル・ザルツカンマーグート2024の一環で、オーストリア視覚障害者援助地域共同体OTELOとゼロ・プロジェクトとの協働により実施されました。この実現にあたり、EU・ジャパンフェスト日本委員会より大変ありがたいご支援をいただきました。

目の見えない参加者と目の見える参加者のためのワークショッププログラム、バートゴイゼルン・ハルシュタット湖にて
本ワークショップは、7月19日、20日、21日に開かれました。参加者は、1日、2日間、または3日間全日の申し込みをすることが可能でした。参加費は無料で、プロ仕様のカメラも不要でした。多くの参加者が、全盲または目に不自由のある方々でした。出来上がった作品は、その場で触覚写真に形を変えた後、展覧会の一部となりました。これにより、参加者全員が平等に制作プロセスに関わり、共同制作した写真と物理的に触れ合うことが可能となったのです。

興味深いことに、私達がバートゴイゼルンで写真撮影を行っていた際、全盲の日本人作家のひとりである川村真也氏が、東京から新作の写真作品を送ってくださいました。このアーティストは、バートゴイゼルンでの展覧会のポスターとなった写真を手掛けた本人であったこともあり、オーストリアと日本のもうひとつのつながりが生まれました。

方法論
本ワークショッププログラムは、参加型リサーチ、テクノロジー、匠の技と、芸術の分野におけるアクセシビリティに基づいています。その成果は、2段階で生み出されました。一方では、参加した誰もが容易に鑑賞でき理解できるよう、感熱紙、フェルト、木、皮革を用いたレリーフの形式でプロトタイプが制作されました。他方では、フォトグラメトリーと3Dプリントといった革新的技術を駆使し、スウェルペーパーで作品が複製されました。

 

展覧会およびワークショップの日程
2024年7月16日:展覧会オープニング。他のワークショップからの既存の作品が展示され、公開トークを通じて触覚写真の媒体についての解説がなされました。

2024年7月19日-21日:目の見えない人と目の見える人のための写真ワークショップ。ワークショップと並行かつその一環で、新たな作品制作を開始し、それに続いて共同で試作、編集、改良を行いました。

2024年7月21日:新作の展覧会への組み込み
2024年8月-9月:カラー3Dプリントとスウェルペーパーを用いた作品の制作

本ワークショッププログラムは、来場者そして制作者ともに、従来から視覚芸術の世界で排除されてきたグループに向けて企画されたものです。このアプローチは、彼らを文化的プロセスに積極的に巻き込みました。

本ワークショップ初日、参加者は、モチーフの選定とバートゴイゼルンの古い建物やファサードをさまざまな視点から撮影することに専念しました。今後に向けて、特に芸術的なスナップ写真を撮影するための、多数のアドバイスが伝えられました。2日目に実施されたさらなる撮影セッションの後、参加者と一緒にすべての写真を見返しました。私達は、非常に優れた、興味深い、展覧会にふさわしい写真の数々を見つけ出しました。

最終的に、クリスチャン、サンドラ・ラウシャー親子が、彼らの写真のうちの数枚を、綿(わた)や木、紙などの手芸素材を用いて、他の参加者からのサポートを得ながら、「触れるアートオブジェ」に変身させることができました。ワークショップ3日目の最終日には、開催中の展覧会に新しいオブジェが仲間入りしました。これらの作品は、ハバナ・ビエンナーレ2024/25の会期中に開かれる次の展覧会でも展示される予定です。

2024年11月から2025年:本プロジェクトとその成果は、キューバで開かれる第15回ハバナ・ビエンナーレで披露され、これに付随して、目の見えない人と目の見える人のための写真ワークショップも実施されることになっています。

このインスタレーション作品は、オーストリアでも同様となります。U字型構造の外側に、点字で書かれた紙を用いたインスタレーションがあります。これらの文章の内容は、スペイン語の点字が理解できる人々だけが解読できるようになっています。つまり、今回に限っては、差別が逆転しています。排除されているのは、私達「普通の」人々なのです。これらの記述は、日本のおみくじのお告げから着想を得ています。

おみくじのインスタレーション作品の文言は、「全盲および目に不自由のある人々の暮らしに関連した10の短いおみくじのお告げを書いてください。」という入力内容に応えて、ChatGTPが作り出したものです。これらはその後、短冊状にカットされ、ルベン・マルティネス・ビリェナ州立図書館で開かれた展覧会でのインスタレーション作品に吊り下げられます。

ルベン・マルティネス・ビリェナ州立図書館で開催された本展のシミュレーション映像は、こちらからご覧になれます。

2025年初旬に向けて、私達は、レオンディンクにある古い要塞塔で開催されるオーストリアでのもうひとつの展覧会を計画中で、ここでも再びワークショップが開かれ、過去の参加者による作品も展示される予定です。他のコラボレーションとしましては、ナイジェリアのラゴスと東南アジアに的を絞り取り組んでいます。