世界中が屋根の下に

ラサ・チュミエリアウスカイテ|カウナス・アーティスト・ハウス アーティスト

建築が最初に生まれたのは、美しくあるためではなく、人間を外的要素から守るためでした。視覚的な美しさは、目的のために作られた空間の副産物にすぎず、使用される材料や建築家の専門知識によって決定され、居住者の習慣や文化によって形作られました。質感、音、匂いは非視覚的建築であり、使途、物語、空間リズムで空間を満たす方法もまた非視覚的建築です。

建築は本来、雨、暑さ、雪、風、動物、外敵などから身を守るシェルターでした。木材、草、粘土、藁、石など共に機能するような素材で作られ、構造はシンプル且つ頑丈でした。

建築は、人々が土地と繋がり、快適な滞在場所を確立し、さらにそれを向上させる助けとなりました。長い定住生活は、それぞれの地域のコミュニティ特有の建築表現を生み出しました。何千キロもの陸と海を隔て、異なる歴史の影響を受けて形成された日本とリトアニアの人々は、奇妙なほどよく似た住宅を生み出しました。しかし、視覚的な類似性は、二つの国の伝統的建築の背後にある深い物語の表面的な次元に過ぎません。

この展覧会では、屋根という極めて重要な建築要素を提示し、来場者に、建築において不可欠な空間体験を提供しました。この感覚的なインスタレーションは、彫刻ではなく建築作品とみなされるに十分なものですが、木やい草の匂い、透ける木漏れ日、天然素材の質感など、非可視的な豊かな体験に満ちています。本展は、いわゆる建築の展覧会とは異なり、建築の分野で従来用いられてきた制作論理を本質的に見直し、視覚障害者とともに発見した空間を引き出す方法を提示するだけでなく、非視覚的な環境の意味論も明らかにするものです。

私たちは来場者に典型的な建築空間との繋がりを再認識し、日常的に出合う空間との関係を再考するよう促しました。目に見えるもの以外に何がありますか?目を閉じたら、それをどのように思い出すことができるでしょうか?

私たちの観点では、環境に対する深く、文化的に豊かで、そして社会的に生産的な理解というのは、建築の形式的な視覚的解釈だけでは顕在せず、より広い視点が必要だと考えます。それは、世界に対する認識が異なる特定の社会集団から学ぶことによって明らかになります。しかし、よく考えてみれば、私たちは皆それぞれ、自身の特別な方法で周囲の空間を体験しているのではないでしょうか?私たち一人ひとりが安らぎを感じ、安全で快適な、プライベートで親密な空間をどこかに持っているのです…。

Non-visual architectural workshop with the Kyoto blind community ©︎ Takashi

私はクリエイティブ・パートナーの本間智美氏と2年間の建築リサーチに取り組みました。私たち2人は、共に、豊かで興味深い文化を持つリトアニアと日本を代表する建築家でありアーティストです。私たちは、それぞれの国の伝統建築の現象を探求し、両国の間、そして私たちアーティストの間に異文化間の対話を築こうと試みました。それは、言語と視覚の壁を乗り越え、触覚、嗅覚、聴覚といった様々な感覚を通して、両国の文化への普遍的な建築文法を認識できるような対話です。

しかし、そもそもこの文法とは何でしょうか?私たちはどのように建築の言語を読み取り、ファサードや構造物の間に隠れたサインをどのように理解するのでしょうか。視覚的でない言語を通して、どのようにお互いを理解するのでしょうか?

本間氏は、縄文時代の茅葺き屋根は、雨や風、外からの脅威から身を守るためのものでと言いました。彼女によれば、建築は家族を守るという優しさに包まれた空間から始まり、徐々に機能性を取り入れていったといいます。技術の進歩は機能性を押し進め、藁の床はい草に置き換えられ、屋根は耐久性のある素材を用いるようになり、見た目の美しさも追求されるようになりました。やがて機能性は生活を合理化し、畳や間仕切りをなくし、最小限のメンテナンスで済む画一的な空間を求めるようになりました。

彼女はまた、久しぶりに新鮮な畳の香りを嗅ぐと、分厚く柔らかいい草の上に横たわり、なぜ昼寝をしたくなるのか不思議に思うとも述べています。香りが記憶を呼び起こすのです。畳表の織り目の正方形は親指一本分の大きさで、その中に季節ごとに移り変わる陽光が差し込みます。それぞれの素材が、尽きることのない議論を紡ぎ出すのです。そんな部屋の香りの中で育った子供たちは、将来何を思い出すのでしょうか。

ArchiTextura: Unchanged & Evolving exhibition opening ©︎ Justinas Kalinauskas

ArchiTexturaLABは、非視覚的な建築に焦点を当て、時代や国境を越え、世界中の人々を語り手にすることを目指して物語を紡いでいます。神戸と京都の皆さんの協力のもと、現代のテクノロジーを駆使して温もりのある空間を作り上げました。一歩足を踏み入れ、リラックスして目を閉じてください。ぜひ心に浮かんだ物語を、ここで共有してください。