「うたうこと」・・・その先にあるもの

メイジャー佐知子|所沢フィーニュ少年少女合唱団(指揮者)

私達がVeszprém2023へのお誘いを正式に頂いたのは11月下旬頃でした。コロナが再び猛威を奮っている中でしたが、辞退する選択肢はありませんでした。なぜなら、そこには「やっと自分の番‼︎ 」と待ち構えている子が大勢いたからです。それは、フィーニュが今まで経験させて頂いた6回にも及ぶ海外遠征で、帰国後の子ども達から聞く話や、表情や歌声が変わったなど、思い切って遠征に行かせて本当に良かった!という先輩達の言葉が、とても良い雰囲気でフィーニュ内に残っていた為でした。

5月は学校行事も多く、行ける子は少ないだろうと思っていたのですが、蓋を開けてみたら、何と41名もの希望者!! 地図で見る隣国はまさに戦況の中、送り出す保護者の心配は計り知れない。しかし、そんな状況にも関わらず「何かあったらどうしてくれるのか?!」などという質問が出なかった事は本当に有り難く、心から感謝しました。このような私達指導者と保護者の信頼関係は、もう長年フィーニュの大切な宝物のひとつです。この子ども達を全員必ず無事に連れて帰ること!そして、この遠征がどの子にとっても最高のものになるよう、全力を尽くすこと!を誓いました。

4月初旬、練習開始。恐る恐るマスクを外し、久々に顔の前に何もない状態の中「息の吸い方を忘れた」という子ども達に思わず笑ってしまいましたが、確かに妙な感じがあり、鏡の前でお顔のリハビリからする事になりました。この何年か一緒に練習出来なかった子ども達が、あちらこちらで「初めまして状態」だった事も影響し、歌以外の部分でやることが多く、1ヶ月半後にひとつのチームとして一枚岩になるには、課題山積みのスタートとなりました。

互いの心をなかなかオープンに出来ない子ども達が、素直な気持ちを出せて、心をひとつに出来る歌はないか?…そんな事をぐるぐる考えていた時に、ミマスさんの「地球星歌」を思い付きました。シンプルなメロディーに、スッと心に入り込んでくる歌詞は、きっと子ども達が気に入る!!勘は大当たりでした。一人一人が何かを感じ、その想いを歌に乗せ始めてからは、みるみる表情も変わり、聴いた事のないような豊かな音が生み出されました。一気に優しい空気が流れ始め、気付いたら子ども達が仲良くなっていた~♡!

Concert ©Tokorozawa Fény Children’s Choir

「地球星歌」を選んだもう一つの理由は「平和」がテーマという部分です。微力ながら私達にできること…それは「平和」への想いを歌に込めることでした。Ági先生が心のこもった素晴らしい曲解説を入れて下さったおかげで、歌詞の意味をより明確に伝えることが出来、コンサート本番の「地球星歌」は格別なものとなりました。言葉は通じなくとも、私達の想いと聴いて下さる方々の想いが、音楽を通して重なり共感し合って、そこにいるすべての人が、何とも言えない温かさに包まれました。海外限定の(!)子ども達の嬉しそうで満足気な顔は、ずっと見ていたいほど可愛くて、ここに来られた幸せに、心からの感謝が溢れました。

海外限定と言えば、子ども達があんなに踊れるとは!驚きでした。夜な夜なダンスパーティーで汗だくになっていた子ども達…日本で見ている姿からは想像出来ない子も多かったので、これがこの子達の本来の姿なのかもしれないなぁ~と嬉しく眺めていました。そして、これが日本で見られないことが本当に勿体無いと感じました。日本人はどうしても謙遜を美徳とする文化的背景のせいか、はたまた和の文化の影響なのか、教育の場では「個性」よりも「同調」が求められます。輪を乱さないことや、周囲と同じように行動することを強いられる日本の子ども達は、周りを気にするあまりに、主体性や積極性を封印してしまっているように感じてなりません。同調や空気を読むことも時には大切ですが、それが常にベストではないはずです。今回の経験を経て、勇気を出して人との関わりを楽しめるようになると、全く新しい自分に出会えることを、感じた子も多かったのではないかと思います。子ども達には、是非大人になる前に、臆する事なく、色々チャレンジして欲しいです。そして、今後、日本の良さを残しつつ、一人一人の「個性」を大切に育てていけるような、新しい教育スタイルが確立されることも期待しています。

「音楽はすべての人のもの」とコダーイは言いました。それを象徴するように、毎回のコンサートでは、聴衆との嬉しい一体感を感じられました。最後のSOHO PARTYの大合唱は、この聴衆ごと日本に持ち帰りたい!と思うほどでした。コンサート前日に、絶対にこの歌をプログラムに入れた方が良い!と、興奮気味に(笑)提案してくれたJúliaに感謝しています♡そして、素晴らしいコンサートを用意して下さったÁgi先生とVVV Kórusの素敵な子ども達に、次回は日本で恩返しをしたいと思っています。

私達のお手伝いをして下さった通訳の友子さんから頂いたメッセージ・・・
【こんな仲間(社会)の中で過ごせるFényの子ども達にはきっと幸せな未来が待っているのでしょうね】
25年間ずっとブレずに目指してきたのはこれだ!!…飛び上がるほど嬉しいお言葉でした。

Hungarian Night © Tokorozawa Fény Children’s Choir

今回も子ども達は、感動を伴う様々な体験をさせて頂く中で、人と繋がる喜びや、自己成長の喜びを味わうことが出来ました。このような経験を積んだ子ども達は、自分を大切にし、無限大の可能性に向かって、ポジティブに前進することが出来るのだと、私は思います。

「うたうこと」…その先にあるものは、ズバリ「幸せな人生」です!!大好きな歌を「土台」にして、子ども達がそれぞれの明るい未来を切り拓いていくお手伝いが出来れば、そんな嬉しいことはないです。

終わりになりますが、EU・ジャパンフェスト日本委員会の皆様、ホストファミリーの皆様、そしてÁgi先生とVVV Kórusの子ども達、Veszprém遠征に於いてご尽力頂いた全ての皆様に、心からの感謝を申し上げますとともに、このような素晴らしい活動が今後もぜひ継続される事を心より願っております。本当にありがとうございました。