Solo l’impossibile vale lo sforzo

トマソ・デルヴェッキオ|マテーラ2019 プロジェクト・マネージャー

「Upside Down Sky(逆さまの空)」プロジェクトは、マテーラという場所に紐付けられたコミッションで、マテーラ2019と日本人アーティスト栗林隆のコラボレーションの中で生まれました。

栗林のマテーラへの初訪問は2018年秋のことでした。このアーティストは、マテーラ欧州文化首都でのコラボレーションに向けた準備の一環として、彼の作品を展示するのに最適な場所を探す視察訪問のためにマテーラに招かれました。

滞在中、彼は洞窟や教会、古代の宮殿に至るまで、様々な場所を見せられました。彼が特に感銘を受けたのは、多くの家に丘の岩盤をくり抜いて作った部屋があるサッシ地区の建物の奇妙さでした。この部屋は通常天井が低く、光がほとんど入らないので、薄暗く厳かな雰囲気を醸し出しています。

 

栗林はこの訪問で触発され、マテーラのためにこの場所独自のインスタレーション作品を制作することを 考えました。彼の元のコンセプトは、文章として配置した小さなガラスペーストの文字だけでできた木というものでした。その木は、文字の影が部屋の壁に投影されるように内側からライトアップされるのです。

この作品の制作は長いプロセスでした。最初のステップは、作品に使う適切な文章を見つけることでした。文章はマテーラについてイタリア語で書かれているものを使うことになりました。しばらく探した後、私たちは、新しい文章を書くのが一番良い方法だと決めました。従って、地元の作家であるエドアルド・デッレ・ドンネに連絡をとってプロジェクトのストーリーを説明し、短い詩編を書いてくれるよう頼みました。

不可能なことのみが努力に値する

 君の腕の中で大地は心のように眠る/君はその唇の上の水の甘い味のようなものだ/君の沈黙の迷宮と感嘆と影によって/君は核である芽であり、大地の暗い裂け目である/君は誇りであり、願いや危険であり、燃え尽きる情熱である/君は私たちの存在を示す大きさであり、形であり、鋳型である/マテーラ、私の街、君の真髄は水のように流れる/夜になって、その大地が新しい繁栄を抱くときに/今こそ君はその歴史を変えることができる。君こそがその歴史なのだ。

 

栗林隆はこの文章を何百もの4cm以下のガラスペーストの文字として刻みました。文字はインドネシアの職人によって準備されたので、私たちがインスタレーションを始める前に袋や箱でイタリアに輸送されなくてはなりませんでした。

 

私たちのチームはインドネシアにいる隆と話し合いをしていたので、この新しい作品を制作するのは複雑なプロセスでした。適当な場所を見つけ、作品の仕様を調整し、書類を準備することのすべてを大きな時差がある中遠隔で行わなくてはなりませんでした。しかし、この大変な共同作業は実を結びました。

 

私たちは、「Entrances」と「Upside Down Sky」の二作品を展示することを決めていました。「Entrances」を組み立てたのと同じタスクフォースが、この新しい作品にも取り組みました。見事なガラスの文字は、大きな綿の布の上に正しい順序になるよう並べられました。

この段階で、作家のエドアルド・デッレ・ドンネがチームに加わりました。文字は金属のワイヤーで繋げられ、文章の部分を綴る何本もの長い紐に処理されました。その後、この紐は根と枝を持つ一本の木の形に配置されました。

絶え間ない数日間の作業の後、最後の部品が取り付けられ、私たちは照明を消して成果を見ました。部屋は作品の核の明るい光以外は真っ暗になり、壁は半透明の文字で飾られました。現実を超越したような、ほとんど神秘的な雰囲気でした。

この作品はその次の日に観衆に公開され、多くの観光客と文化関係者を引きつけました。

本プロジェクトはマテーラ2019にとって非常に重要なものでした。第一に、私たちは栗林隆が完全に新しい作品を手掛けるのを目の当たりにし、その創作のプロセスの一部になることができました。それ以上に、マテーラのためだけに制作され、その間に私たちが築いた日本とのつながりを象徴する「Upside Down Sky」は私たちにとって大切な作品です。

今回の展示の後、このインスタレーションは市に寄贈され、私たちの国の友好のシンボルとして、また、アートや文化、美が時と場所の制限を越えて人々をつなぐという事実の記念として、マテーラにずっと残る予定です。