コラム
Column新しい地平線
セルビア政府は、欧州文化首都ノヴィ・サド2021-2022の功績として、初めて国内の文化首都プログラムを開始しました。DUKフェスティバルの開催地であるチャチャック市には、初の文化首都という名誉ある称号が与えられました。
DUKフェスティバル・プロジェクトは、セルビアのチャチャック市で9年間続くストリートアートイベントです。このプロジェクトの目的は、壁画を描くことによって、街の外観を改修し、公共スペースを穏やかな雰囲気にし、ヘイトスピーチと対抗することにあります。DUKフェスティバルではこれまでに100以上の壁画が描かれ、5つの音楽フェスティバル、多数の展覧会、スケートボード大会、その他の文化イベントを開催してきました。
ある日、DUKフェスティバルのチームの元へ、EU・ジャパンフェスト日本委員会の助成金を申請し、日本の団体やアーティストとチームを組み、両国の架け橋となる新しい芸術作品を創作し、新たなパートナーシップを築くという、信じられないようなチャンスが舞い込んできました。パートナーを見つけ、提案し、合意に達するというのは、一見、とても簡単なことのように見えました。しかし実際には、パートナーを見つけるという最初のステップが最も難しいものだと気づきました。
日本のストリートアートシーンは、ヨーロッパ諸国ほど発展しておらず、支援も行われていない為、活動しているフェスティバルや団体は多くありません。二つ目の挑戦は、ヨーロッパではよく見られるような、パートナーであるフェスティバルや仲間からのコンタクトや推薦がなかったことです。最後に、言葉の壁も障害でした。しかし、パートナー探しの善意と努力は報われました。イギリス人のフォトグラファーとスペイン人のストリートアート・キュレーターを通じて、日本のストリートアートシーンに特化したNFTオークションハウス「TOTEMO」と提携することができたのです。
TOTEMOのスタッフと何度かミーティングを行い、DUKフェスティバルのビジョンや目標、また過去の例について話すなど、DUKフェスティバルをより深く紹介した後、DUKフェスティバルへの参加が見込めそうな日本人アーティストのリストが出来上がりました。DUKフェスティバル内のミーティングの後、フェスティバル運営チームは、日本人アーティストBAKIBAKI(山尾光平)を招聘することを決定しました。TOTEMOチームもこの決定に同意し、すぐに山尾氏、TOTEMOチーム、DUKチームとでのミーティングの段取りを整えました。オンラインミーティングでは、BAKIBAKIの来訪日程及び、制作に使用できる可能性のある壁面のサイズについて合意しました。その後、DUKチームは壁探しを開始し、アーティストの要望にうまく合致し、且つ近隣や環境のニーズにも応えられる適切な壁を探しました。 双方のチームが納得する相応しい壁と表面が決定すると、次の段階はスケッチを描くことです。セルビアと日本の間の意義ある繋がりを見つける為、また、アーティストの表現方法に応えられるようにする為、私たちは再度電話で話し、何度かメールでやり取りしました。いくつかの提案の後、セルビアとこの地域の特徴的な動物である茶色い熊のスケッチに決定しました。そのスケッチを持って地元のコミュニティや建物のオーナーに会いに行き、ファサードに壁画を描くことを許可してもらえるかどうかを尋ねました。回答は好意的で、私たちは航空券や現地での移動手段、資材、輸送関連の事柄など、その他の運営上の準備に取り掛かり始めることができました。
BAKIBAKI到着の瞬間から、言葉の壁によってうまくコミュニケーションが取れないのではないかという事前の心配は払拭され、実りあるとパートナーシップとこれから長く続く友情のためのフィールドが私たちの前に広がっていました。フェスティバルの最初の数日は制作作業に専念し、夜は他のアーティストたちと一緒に食事をしたり、地元の料理を食べたり、互いの文化的な共通点や相違点について話し合ったり、もちろん地元のブランデー、ラキヤを味わったりもしました。天候に恵まれ、BAKIBAKIには数人のアシスタントがいたこともあり、彼の作品は4日間で完成し、周辺を散策する自由時間が残されました。私たちフェスティバル・チームは彼を地元の山へ案内し、地元の名物料理に舌鼓を打ちながら自然の中で共に余暇を過ごしました。
BAKIBAKIは、公共スペースでの作品制作を通して、地元コミュニティととても思い出深い繋がりを持ちました。制作には地元の若者がアシスタントとして共に作業しました。BAKIBAKIとの経験は彼らの将来の作品制作にとって非常に貴重で刺激的なものとなりました。
日本から来たアーティストはメディアの注目を集め、BAKIBAKIはいくつかの取材を受けました。制作時間以外にも、私たちは夕食時に興味深い話をしたり、街中の自然を訪ねたりするなど時間を共有しました。 また、EU・ジャパンフェスト日本委員会の支援を受け、当フェスティバルのチームが日本を訪れ、リサーチを行うことで、BAKIBAKIのフェスティバルと当フェスティバルの今後の協力関係を築くことができました。このように、実り多き9年間と多くの素晴らしいコラボレーションを経て、私たちは今なお新たな地平を体験し、ネットワークを広げることが出来ていると結論づけることが出来ます。