モンテネグロ国際交流展の想い出の旅 – バリアレス・ハートと共に

右近多恵子|日本・モンテネグロ芸術文化交流展実行委員会 副理事長

この度、モンテネグロの世界遺産の都市、コトル市街のコトル文化センターにて、日本・モンテネグロ芸術文化交流展を開催しました。開催期間は、2023年7月23日~7月31日の9日間でした。

 

背景と経緯について

近代、モンテネグロはユーゴスラビアに1918年に併合され、実に88年ぶりになる、2006年に独立を果たしました。新しい国と言えましょう。しかし、日本との関係は古く明治時代に明治天皇より、王都ツィティニに有田焼の壺が送られるなど、現在もミュージアムには江戸期からの沢山の有田焼の磁器が展示されています。

1979年(昭和54年)6月に現上皇陛下夫妻が皇太子時代に、モンテネグロのコトルを訪問され、民族衣装による舞踏をたのしまれるなど、日本との交流を深められました。

モンテネグロの東部のアンドリイェビツァ自治体にJAPAN(ヤーパン)という村があります。2011年3月11日の東日本大震災の折にこの村の年金生活者の皆さんか、日本が大変なことに成っているということで、1万ユーロをドネーションしてくださいました。

そのお返しに2016年東京倶楽部のご支援で、陽光桜を寄贈しました。モンテネグロの方々は、親日家が多く日本に関心と好意を寄せられています。

桜の木の植樹の様子をテレビ放映で偶然観た本企画の理事長:井上浩氏は、風向明媚なモンテネグロの様子を知り、さらに両国の友好を発展させる一助として是非モンテネグロでアート交流展を開催したいと考えました。そして、駐日モンテネグロ名誉領事館に相談し、当時主任補佐官でいらした奥貴江子氏のご支援のもと、この交流展が実現することになりました。

過去に、2018年に「日本の室内管弦楽団のコンサート」、2019年に「心に響く歌舞伎音楽の調べ」、日本の落語会などが開催されましたが、アートの国際交流展は初めての試みでした。本企画では、日本のアートの第一線の画家、現代美術家と身体にハンディーを持ちながらも高い評価を得て展覧会活動を行っているアーティストグループ・バリアレス・ハート作家と共に、モンテネグロの中堅作家を招き、開催する運びとなりました。

日本の幅広い現代美術。平面、立体、オブジェ、テキスタイルなどのアートを紹介し、モンテネグロの現代美術と共に、日本文化とモンテネグロ文化の相互理解を深め、交流を図ることは、日本とモンテネグロの新たな門出の始まりであります。大変意義深いことです。

この展覧会の企画にご賛同頂きました国連の友Asia-Pacificの後援、セルビア共和国大使館、在モンテネグロ日本国大使館を兼轄する在セルビア日本国大使館、一般社団法人東京倶楽部、及びコトル文化センターには、この場をお借りて熱く御礼申し上げます。

なお、このコトル文化センター使用つきましての経緯をご紹介いたします。日本の水球チームを指導された、モンテネグロ水球チームのランコ・ペロビッチ監督並びに、御夫人スネナジャさん。この方は教育者でもありますが、ご賛同ご助力頂きコトル市の城壁内のコトル文化センターを使用できることに成りました。また、あらゆる助力をおしまず与えてくださった、現地ディレクターのヴォジャビッチ・マリアさんに熱く御礼申し上げます。

A picture of stuff and participants in front of artwork from barrierless heart  ©︎ Japan-Montenegro Art Exchange Exhibition Executive Committee

日本・モンテネグロ芸術文化交流展会場と想い出の日々
7月23日早朝到着後、展示作業が始まり午後2時より会場がオープンしました。
会場風景について。展示会場はコトル文化センターの1階、2階を使用し、日本のアーティスト、バリアレス・ハートのアーティスト、モンテネグロのアーティストが混じりあうような展示を試みました。バランスの良い、そして観やすい満足の行く展示となりました。日本の現代美術作家、モンテネグロの現代美術作家は、或る共通の要素が観られ、世界的な不安の時代を映しているのか、アーティストそれぞれの或いは、人間の内照的な世界を表現しようとする傾向の作品が多く見受けられました。これだけ遠くの人間同士にもかかわらず、共通の世界が生まれていることに驚きを禁じ得ません。そのやや重たい色相の中で、異彩を放っているのは、バリアレス・ハートのアーティスト達でした。彼らの多くは、外の世界への素直な眼差しと、感銘が豊かな色彩で表現されていることです。多彩な色彩が存在することにより会場全体が非常に奥行きのある展示となり、豊かな展覧会空間が出現しました。

私達は、当たり前のように健常者の視点で世界を観がちです。良く想像を巡らせて見れば、健常者が無意識的に暮らす日々を、ハンディーの有る者がいかに意識を置き、困難と共に暮らす日常であるかを、思い起こすことが出来ます。実は私の夫は先天的な病気が原因で視力を失った視覚障害者です。しかし、共に暮らす日々の中で自宅では彼が視覚障害であることを忘れてしまうくらい、彼は空間を記憶しています。

それは、一つの努力の賜物であることを忘れてはなりません。この度、ご縁があってバリアレス・ハートのアーティストを共に展覧会を行い、改めて、彼らの逞しさ、生きる力強さを彼らの作品を通して知りました。国際交流が2次元的交流と捉えるなら、バリアレス・ハートとの交流は眞に、3次元的交流と言えるでしょう。

この様な試みは、これからも多く行われることを、望んでいます。そうすることによって、私達の視野が押し広げられることを、切に望みます。

作品の全体のバランスは、日本の現代美術アーティスト10名、バリアレス・アートのアーティスト6名、モンテネグロ現代アーティスト5名でした。

A picture of an explanation session of Kakishibu Tenugui Dyeing ©︎ Japan-Montenegro Art Exchange Exhibition Executive Committee

帰国後の展望

この展覧会の終了後、日本の銀座の画廊で報告展を開催する計画があることをこの企画のもう一人の副理事長である、井上洋子氏から聞きました。彼女もこの感慨を共有している1人だと心強く感じました。このような展覧会の試みは、小さな灯かりかもしれませんが、大きく育っていくことを切に願います。

最後に、人類がより豊かな人間性を獲得するために、バリアレス・ハートのアーティストとの共同展は素晴らしい試みであると皆様にお伝えします。