コラム
ColumnUNIK TOUR に参加して
今年の3月に震災が起きて、個人的にもいろんな転機を迎えていたこの時期に、偶然にもこの UNIK TOUR のアテンドのお話しをいただけたのは幸運でした。
しかしその時点では UNIK という存在を全く知りませんでしたし、どのような方たちで、どんなダンスをするのかといったことが、ほとんど情報がないままでお引き受けすることになりました。
初日、東京藝術大学の体育館で、初めてメンバーのみなさんとお会いしての練習でした。教わった振付はとても簡単なものでしたが、不思議と踊っている自分が笑顔になってしまうような、そんな踊りでした。
その感覚は、いまの自分が忘れかけてしまっていた、踊りに対して純粋に楽しむことのできた「あのとき」が戻ってきたような、そんなうれしさにも似た感覚だったでしょうか。あとで分かることなのですが、これが UNIK のダンスの魅力なのでしょう。
「踊り」というのは特別なことではなく、みなが生まれながらに持っている。そんな、誰もが心の中に眠らせている「踊り」を目覚めさせてくれる力。そんな不思議な「踊り」を自分もこのときに感じました。
翌々日からの仙台市立四郎丸小学校、そして宮城県利府高等学校でのダンスワークショップはそんな UNIK マジックで、子どもたちは心からダンスを楽しんでいました。
もちろん、先生方も。
今回の自分の役割はダンスワークショップにおける振付の見本と通訳、そしてそのほかに個人的に写真も撮影していたのですが、子どもたちの素敵な笑顔をたくさん撮影することができたのも、彼らが踊りを心から楽しんでいた証拠だと思います。
また四郎丸小学校ではダンスワークショップだけでなく一緒に給食を食べたりと、そんな交流を持つこともでき、自分は何十年かぶりの給食の味に感動しました。
いや、それはきっと「味」ではなく、仲間とともに過ごす時間の素晴らしさを思い出したからだったのかもしれません。
帰り際、みんなが校舎の窓からずっと手を振り続けて見送ってくれたことが、いまでもとても印象深く残っています。
また仙台では一般の方たちを集めてのダンスワークショップも行いました。ルールはなし。
ダンス経験者も、ダンス未経験者もそれぞれがそれぞれのやり方でダンスを楽しむ。これが UNIK 流。
コンテンポラリーとアフリカンダンスのレクチャー。
その後は参加者によるダンスセッション。
最初は恥ずかしくて踊れなかった人たちも、最後はみんな入り交じってのダンス交流でした。
ワークショップ後も懇親会を開いて夜中までみんなと語り合いました。
自分も初めて会う仙台のダンサーといろんな話をする機会ができました。
イベントには参加者・観覧者あわせて約250名ほどが来ていただき、山形のダンスチームを集めてのショウケース、そして UNIK によるダンスワークショップと、自分の生徒たちにも踊りの楽しさを再認識させてあげられる機会を持つことができ、とても嬉しく思っています。
また自分の作品を UNIK のみんなに見ていただくこともできました。
この、とても短くて、とても濃密な4日間の旅で、自分はいろんな想いを新たにすることができました。
人は生きている間に、いったい何人の人に出会えるのだろう。
偶然または必然。
そしてそれはいままで出会うはずのなかった人たちに、自分を引き合わせてくれる。 UNIK、FLANDERS CENTER そしてEU・ジャパンフェスト日本委員会のみなさま、小学校・高校の子どもたち、そして仙台・山形の人びと。
いままで自分の世界にいなかったたくさんの人たちが突然目の前に現れる不思議。
いや、「六次の隔たり」という言葉の通り、自分の世界にいなかったのではなく、自分が知らなかっただけなのかもしれない。
そしてその人たちのおかげで、自分は「踊り」に対してまた新しい認識を得ることができたのです。
わたしたちにとって、「踊り」とはどういうものなのだろうか。
どのような意味をもって、どのようにわたしたちと向き合っているのだろうか。
いつも自分はこのような疑問とともにダンスと接してきた。
世界にはふたつの踊りがある。
ひとつは、他者をおしのけ、喘ぎながらも懸命にみずからの極限へ挑みつづける踊り。
そしてもうひとつは、しっかりと大地に根を下ろし、人びとの生活に恵みを与える踊り。
UNIK の踊りは後者に徹していた。
踊りが日々の生活と人生に潤いを与えるということを信じて、それを実践しているのだ。そしてそれが正しいことは、ワークショップで一緒にダンスをした人たちの表情を見れば一目瞭然だった。
3月の震災で疲弊した東北。
しかしこの子どもたちの笑顔を見ていると、そんな心配はもう無用だと言うことに気づく。そんなキラキラと輝く笑顔を持つ子どもたちの中には、広い意味での「踊り」というものがあった。
それは「ダンス」という狭い意味のものではなく、もっと広い意味、言いかえれば「生命の躍動」ということなのだろうか。
「ふたつの踊り」、自分は常にこの間にはさまれて悩んでいたのだろう。
そしていま自分はある答えを見つけたように感じる。
自分はすべての人に寄り添って、心の隙間にそっと入り込んでいく、そんな踊りをしていきたい。
すぐそこにある踊り
それがいまの自分が目指すべき踊りのスタイルであることを、再確認することができた。
この機会を与えてくれたすべての人たちに感謝して、レポートを終わりたいと思います。
◎第19回EU・ジャパンフェスト:「ダンスグループ・ユニック:東北公演・ワークショップ」プログラムページは コチラ