コラム
Columnコロナ禍のハンブルクで
私は2002年より北ドイツのハンブルクという街で、現代美術のギャラリーを運営してきました。これまでヨーロッパにある美術館を訪問してきて、日本の現代美術があまり紹介されていないことに疑問を持ちました。そこで、日本とヨーロッパの架け橋になればと今日まで尽力してきました。
2020年は世界中で広がっているコロナ感染の拡大により、予想をはるかに上回る難しい状況のなか、今後の私にとってどのようにギャラリーでアーティストの作品を紹介していくのかを色々と考えることができた重要な年でもありました。2020年3月中旬から約1カ月半、ドイツではロックダウンを施行され、ギャラリーで行う予定でいた年内の展覧会をいくつか変更しなければなりませんでした。それに伴いロックダウン後も、入場制限をするなどして人の密集を避け、消毒・感染防止対策に勤め展覧会を開催してきました。
9月上旬には、2年前から企画していた札幌在住の山本雄基による個展を開催予定でしたが、コロナによる作品の輸送費用の問題、それに加えて他の作家たちによるキールにある美術館でのグループ展では、日本からの渡航ができないという問題が起こりました。一時は、山本雄基の個展を来年に延期することも考えましたが、やはりこのような時こそアートのパワーが必要だと考え、準備を進めて10月31日に開催しました。
山本が提案した展覧会のタイトル「Place of Hello」には、前向き且つ、ハローという言葉の響きが持つ良い軽さ、個展会場が作品と向き合える場、人々が会える場、ハローと言い合える場になってほしいという願いが込められています。ギャラリーとしてもドイツの美術館やキュレーター、地元に住んでいる人に山本の作品と対峙してもらうことで、写真では伝えきれない画面内の構造を体感してもらうこと、日本の現代美術にも関心を持ってもらうことを本展覧会の目的としました。初日は、ギャラリー始まって以来の少ない訪問者になりましたが、山本とお客様が直接話をできるようにスカイプ通話を導入しました。このような体験は私自身も初めてのことで、今までとは異なるギャラリーのあり方も色々と模索し、展覧会場を撮影したものや、過去の資料と共に作家のインタビューなどもWeb上で紹介しました。
また一方で、地元テレビ局の取材があり、新旧のお客様がギャラリーを訪れてくださり、作品はもちろんのこと、これからの芸術の変動や移り変わりなど、それぞれの意見を交換する時間を持てました。コロナ感染は日を追うごとに拡大していく中で、確定した計画が立てられない状況ですが、このような時こそ新しい考えと新鮮な態度で切り抜くことができると思っていますので引き続き模索していこうと思っています。
そして今回の状況がきっかけで、自分一人で実行できることは限られていると改めて思いました。最初は作家とギャラリーで二人三脚と考えていましたが、いつからかそれだけでは不十分だということに気がつき、ギャラリーに興味を持ってくださるお客さんとも一緒に進んで行くことが重要だと実感しました。それはある意味でスポーツと似ているような気がしています。鑑賞者が居なければ、作品を展示できたとしても次の展開がないと言っても過言ではありません。コロナ感染が拡大すると共に展覧会の開催や文化施設の閉鎖を目の当たりにし改めて作品を体感できる喜び、また、直接見せることができないやるせなさを実感しました。それらの経験をきっかけに、これからギャラリーとしてどのような仕事を作家と実現していけるのかを考えました。私の経験から実感していることは、自国ではない場所で作品を発表するということは、一筋縄ではいかないということです。特に私の知っているドイツで生まれ育った人たちは、質実剛健でじっくりと物事を見極めます。ギャラリーの活動や方針、各作家の作品を認めてもらうのにも長い付き合いが必要になってきます。ですから作家と長く仕事ができるのかどうか、海外で行う展覧会は色々と難題が出てきますが、そこにはお互いに対等な関係、そして、相互作用が成立する将来の方向性を持っているのかが大事になってきます。現代では、当たり前のようにインターネットが経済を動かす大きな歯車になってきました。堪能に英語を話せる作家も増え、多くの人が個人のホームページを持ち始め、誰もがいつでも直接的に作家と連絡が取れる状況が可能になりました。これからはさらに、ギャラリーと作家の在り方もどんどん変化していくと考えています。そのためギャラリーとしてもより一層、作家との間に信頼関係を築き、個人ギャラリーにしかできないお客さんへの心配りや細やかなやりとりを心がけていきたいと思っています。
また、特に海外でのプロジェクトでは、色々なアクシデントがつきものです。ですから、臨機応変に対応し周りの人たちと協力をしながら展覧会を作りあげていくという柔軟な体質が要求されます。これからもドイツで展覧会を企画していきますが、継続は力なりで、目の前の課題と進撃に向き合い、 未だかつて誰も体験したことのない展覧会を作るために尽力していきたいと考えています。
最後にハンブルクで19年間ギャラリーを運営して強く感じていること
人間は1人では生きていけません。色々な人たちに支えられ、助けられて生きていると私は実感しています。ギャラリーも同じです。
Mikiko Sato Gallery: https://www.mikikosatogallery.com/