コロナ禍の中で文化首都を存続させるということ

ウィリアム・フィッツジェラルド|ゴールウェイ・フィルム・フラ
プログラムディレクター

ゴールウェイ・フィルム・フラは、美しいアイルランド西部にて、毎年7月に6日間にわたって開催される国際的な映画イベントです。映画祭、フィルム・マーケット、フィルム・カンファレンスといった催しを含むフィルム・フラは世界中からあらゆる世代の、様々な文化的背景を持つ映画製作者や観客たちを歓迎しています。フィルム・フラは毎年プログラムの中で、‘Country-In-Focus’として1つの国の映画作品を特集しています。
 ゴールウェイ・フィルム・フラは現代日本映画への賛辞として、またそれらが欧州文化首都の一部となることを祝し、日本を2020年の‘Country-In-Focus’プログラムの対象国に選びました。このプロジェクトはまた、両国の作品を提供し合うゴールウェイとユネスコ創造都市やまがたとの継続した文化交流を通した、ゴールウェイと日本の将来の協働への出発点でもあります。
 本プロジェクトは将来の協力関係構築を目指して実施した、10月の山形国際ドキュメンタリー映画祭、駐日アイルランド大使館、東京国際映画祭マーケットへの訪問を含む私の視察来日と共に始まりました。私の山形への訪問の中では、山形国際ドキュメンタリー映画祭、山形市とユネスコ創造都市ネットワークの代表者の皆さん―藤岡朝子氏、小林みずほ氏、阿部宏慈氏とお会いしました。同地でのユネスコ創造都市ネットワーク会議では、映画祭の観客とゲストの皆さんの前でゴールウェイ・フィルム・フラについてのプレゼンテーションを行い、山形との将来の協働についても話し合いました。また映画祭では、ゴールウェイで上映する作品を選ぶ前に『沖縄スパイ戦史』を鑑賞し、同作品を監督した大矢英代氏にもお会いしました。

山形訪問の様子(2019年10月)/ ©William Fitzgerald 

山形国際ドキュメンタリー映画祭のあと、私は東京に向かいました。同地での目的は、東京国際映画祭マーケットにて新作の日本映画作品を鑑賞すること、2020年のゴールウェイ・フィルム・フラに日本の映画製作者を招聘するためのミーティングを行うことでした。マーケットでは日本の販売代理店や配給会社の方、独立して活動されている映画製作者の皆さんとお会いし、ゴールウェイでの上映作品候補を探しました。また、フリーストーンプロダクションズとのミーティングとパーティーを通して、ヨーロッパやイギリスから来日した多くの日本映画配給関係者やキュレーターたちとも出会いました。さらに今年2月、新型コロナウイルスがヨーロッパで流行する前に開催されたベルリン映画祭でのヨーロッパ・フィルム・マーケットでは、東京で出会った配給関係者の何人かと補完的なミーティングを行いました。
 当初私たちのプロジェクトでは、ヨーロッパにおける日本映画の新たな息吹への賛辞として、2~3名の監督もしくは助監督と、4~6本の日本の新作映画を招聘する予定でした。また、私たちは『借りぐらしのアリエッティ』、『思い出のマーニー』、『メアリと魔女の花』を監督した米林宏昌氏を招聘し、ゴールウェイでアニメーションのマスタークラスと彼の作品上映を行うことを計画していました。

©Galway Film Fleadh 

新型コロナウイルスの流行により、当初予定していた規模でのプロジェクト実施はもはや不可能となってしまいましたが、私たちは上映作品数が6割削減されてしまった中でもドラマ映画『夕陽のあと』、ドキュメンタリー映画『沖縄スパイ戦史』、アニメーション映画『天気の子』という異なるジャンルの3つの新作日本映画作品を上映しました。私たちは映画祭をオンライン版へと移行し、アイルランド島全体に配信することでこのことを可能にしたのです。当初予定していたものと同じ数の上映は叶いませんでしたが、オンライン版映画祭はゴールウェイの映画館で上映を行った場合よりもはるかに多くの観客たちに作品を届けることができました。私たちは映画作品のオンライン配信にあたり、高画質、安全性、そしてアイルランド全土からの容易なアクセスを確実なものとするため、Festival Scope及び Shift 72という国際的にも著名なプラットフォームの協力を得ました。すべての作品が英語字幕を付記して配信されました。また、渡航制限のために日本の映画製作者の皆さんをアイルランドに招聘することもできませんでしたが、私たちは事前録画された監督の皆さんによる作品紹介の動画を併せて配信しました。これによって観客たちは日本の映画製作者たちによる導入のもと、作品を鑑賞することができました。
 2020年のゴールウェイ・フィルム・フラはオンライン版で500万人以上の観客を動員し、3つの日本映画作品は総計で247人に鑑賞され、ソーシャルメディア上ではより多くのインプレッション(投稿が表示された回数)を記録しました。新たな方策に沿ったものではありましたが、このような状況の中で欧州文化首都ゴールウェイ2020の大きなプログラムの1つが開催された、ということは私たちとゴールウェイの街にとって大変重要なことであるといえます。そしてオンライン上で実施された、重要かつ文化的な映画作品と観客たちの素晴らしい参画を伴ったこの取り組みを私たちは大きな成功であると信じています。

©Galway Film Fleadh 

ウィリアム・フィッツジェラルドはアイルランドの先駆的な映画祭である、ゴールウェイ・フィルム・フラのプログラムディレクターを務めている。彼はかつてデリーのフォイル・フィルムフェスティバル、ニューヨークのトライベッカ・フィルムフェスティバル、アイリッシュ・スクリーン・フィルムフェスティバルにて働いた経験を持つ。