コラム
Column多文化地域を舞台に織り成す芸術的アクション
エデン・ヨーロッパは、私達が今時世において重要と感じる事柄を、誰もが理解できる言語、すなわちダンスや音楽という非言語を通じて、その環境に身を置く人間に問いかける芸術プロジェクトと、親密な関係を通じて可能な限り住民に密着した数々の現代的アクションを打ち出したいという熱意から生まれました。
マノック・カンパニーのエマニュエル・フレッツと大西小夜子の芸術的コラボレーションにより、日本とフランスの二つの文化、相補的な二つの芸術分野、二つの性別が出合う本プロジェクトが実現しました。
こうした最初の発想を踏まえ、2019年以降、私達はフランスとルクセンブルクの跨境地域の住民に会いに現地へ赴きました。この地域にこれほど多彩な文化や様々な空間があることを知って驚き、それが本プロジェクトの実行に導きました。そこで私達は、芸術と自然という二つのテーマの横断を通じた、庭園や自然、都市空間を辿る舞踏と音楽の旅を企画することにしました。発見に値する場所に国境の両側の住民を呼び集め、生き生きとした力強い感動的なひとときをマイクロイベント開催中に提供できると私達は考えました。本プログラムを揺るがす健康危機が起こっても、私達のアプローチは、生きた芸術パフォーマンスのプログラムづくりを続けられる強力な企画といえました。こうして生まれたエデン・ヨーロッパは、瞬く間にフランスとルクセンブルクの様々なパートナー団体の関心を集め、欧州文化首都エッシュ2022の公式プログラムに選ばれたのです。
2021年は、当地域で私達の芸術的アクションが織り成すエデン・ヨーロッパの第一段階を実施する年となりました。芸術的創作のための滞在制作活動と、現地の団体や学校、美術館などの関係者とのミーティングの二つに時間を割いた濃密な一年でした。舞踏と音楽が創り出すパフォーマンス作品『Landscaper, ici même à ciel ouver(ランドスケ―パ―、大空の下のこの場所で)』のプログラムの様々な構成要素の制作に着手し、多様なワークショップ、カンファレンスのテーマ、グリーン・キャラヴァンの制作などの調整に取り組む一方、異なるパートナー団体や選ばれた会場を考慮した全イベントの開催カレンダーのスケジュール管理を行いました。この段階で生まれた素晴らしいダイナミズムに、私達は嬉しい驚きを感じました。当初、可能な限り住民に密着したこの現代的プロジェクトの意味をかなり説明する必要がありましたが、まもなく心温まる反応をいただき、私達は生の要望にお応えできると実感しました。
欧州文化首都エッシュ2022の一大イベントが開催される2022年が遂に訪れました。本プロジェクトが現実となる瞬間を迎えたのです。
最初の数ヶ月は、当地域での準備期間に充て、グリーン・キャラヴァンを完成させ、開催カレンダーの主な方向性を明確化しました。
2月から12月にかけて、70回を超える『Landscaper, ici même à ciel ouvert』の公演、200以上の対話促進型アクションやワークショップ、カンファレンスに加え、10回のグリーン・キャラヴァンの旅を実施しました。
私達は極めて濃密なプログラムを展開し、機会がある際は、ダンサーや音楽家、視覚芸術家、役者、写真家、映像作家など他分野のアーティストとの交流の場をご用意できました。市民は熱烈な反応を見せ、その後も新たな驚きを求めて再び来場しました。
自然と都市の風景を舞台とした作品『ランドスケ―パー』は、選ばれた特定の場所に応じて毎回一新されました。環境がもたらす影響が、私達の創作にインスピレーションを与えたのです。また、全住民を対象にしたワークショップを提供し、国境の両側から人々が来場できるよう、野外空間で実施しました。ワークショップはあらゆる住民に開かれ、国境の両側から来場できる野外空間のほか、学校、障がい者施設、公民館でも行われました。こうして、2歳の子供から92歳の高齢者、障がい者、移民など、多様性豊かな観客に到達できました。私達は、参加者からの反響に心から感動しました。彼らは自らの身体や声を使って非常にオープンに自己表現することができました。移民の女性の方々が、こんな風に自由に自分を表現できると感じたのは初めてだったと語ってくれました。私達は、車椅子に乗った女性が突然立ち上がり、ダブルベースの音色に合わせて踊りだした光景を目にしました。子供や大人が期待に胸を膨らませて私達を心待ちにするその眼差しには、美しいエネルギーが窺われました。
グリーン・キャラヴァンも、本プロジェクトの多数のイベントに加わりました。これが、『ランドスケ―パー』の会場で舞台美術の設営に利用したり、植物の寄せ植えや苔玉などの園芸ワークショップを提供するといった可能性を生みました。
人々は植物に触れ、土の中に手を入れることで、自然と再び繋がりました。本カンファレンスは、市民に専門家であるゲストと語り合い、エデン・ヨーロッパで提起される環境に関する特定のテーマに情熱を傾ける機会をもたらしました。これには、研究者が植林を通じた汚染除去に取り組んだり、視聴覚芸術作家が人間活動により汚染された地域で自然音を聴くことの難しさを解説したりといった例が挙げられます。
2022年12月11日、私達はエデン・ヨーロッパが踏み出した第一歩を祝うことにしました。これには、当地域の自然公園(自然保護区)で生まれた、ダンスと音楽と視覚芸術が紡ぎ出す新しいパフォーマンス作品『ランドスケ―パーX』のパートナー団体や異なる構成要素、作品の披露の場を一堂に集める一面もありました。私達は、特に出席者からの体験談に感動し、なかでも様々なイベントに頻繁にご参加したヴェロニクさんの、「それでは、この素晴らしい冒険を終えた後、私達は何をしたら良いのでしょうか?」という問いかけが印象的でした。
2022年はまさしく、最初のステップといえます。芸術と環境と人間の冒険であるエデン・ヨーロッパは、今後も続きます。エデン・ヨーロッパは、欧州文化首都エッシュ2022のレガシーの一環を成しています。今回の経験は、芸術、自然、人間というこれらのテーマを横断することを通じて、私達が提起したこのアプローチの価値を証明しました。私達は、2023年以降も冒険をし続け、ルクセンブルク、フランス、ベルギー、ドイツの領土からルーマニアのティミショアラに至るまでの国境を越える旅路において、新たな道へと前進し続けることを提唱します。