コラム
Column復興の時機の到来
第4回カウナス建築フェスティバルKAFe2022が、「RECOVERY(リカバリー)」と題したテーマのもと、9月23日に開幕しました。
今日、建築という主題は、ひときわ重要度を増しています。人類の活動により、私達を取り巻く環境は甚だしく変化し、技術革新や産業発展のペース、都市のスプロール化現象、人口の過密化が、持続可能な生活の方向性に歪みをもたらし、地球上の天然資源の潜在力を激減させています。
現在、そして未来に向けて私達の営みに息づいている概念を、再考かつ刷新しなければなりません。復興の時機の到来です。今や質の高い建築プロジェクト、すなわち自然とその表現形式が創造および運営のプロセスにおいて優先事項となる、無駄を削ぎ落した思慮深い都市開発だけを追求していくことが重要です。
第1回カウナス建築フェスティバルKAFe2013では、「都市とそのウォーターフロント」というテーマで中心都市と河川の関係というタイムリーなトピックに取り組みました。2ヶ月に及んだこのイベントは、これほどまでにレベルの高い専門的イベントがカウナス市内で開催されたことから、建築専門家ならびに住民のあいだで驚嘆を巻き起こしました。KAFe2016のテーマ「シティセンターを再起動せよ」では、中心市街地の復興と再生に関わる問題を探究し、一方、KAFe2019のテーマ「ランドマーク建築:市のアイデンティティの創造か、それとも破壊か?」では、成熟した都市構造における新規の建造物がもたらすインパクトについて考察しました。
カウナス建築フェスティバルで実施された活動や多数のイベントを通じて、私達は、都市とそのコミュニティのための建築の必要性について頑なに主張して参りました。本フェスティバルでは、これまでに100を超える展覧会、フォーラム、講演、学生向けワークショップ、建築見学会や、さまざまな形式の非従来型の建築イベントを企画および開催し、また20を超える雑誌、図録、書籍を刊行いたしました。これらは、建築コミュニティ内外で高い評価と認識を獲得しています。
2022年の開催では、異国文化間の専門的な連携に重点を置いています。KAFe2022は、非常に重要なイベントといえる欧州文化首都カウナス2022と同時開催され、この栄誉ある行事の公式プログラムの一環となりました。
本イベントのプログラムを企画するなかで、リトアニア・日本合同建築プロジェクトに、建築コミュニティを再び巻き込む素晴らしい好機となると私は考えました。世界の東側に位置し、1億2500万人の人口を擁する日本と、欧州の東側に位置し、およそ3百万人が居住するリトアニアという異なる歴史と文化的伝統を持つ二国が、今こうして20年にわたる建築分野での協力関係を祝しているのです。本プロジェクトには、極めて創造性豊かなリトアニアと日本の建築家と、あらゆる年齢層の建築学生が参加しています。
「EAST-EAST(イースト・イースト)」建築プロジェクトは、リトアニアと日本の建築家の交流およびプロフェッショナルな友好のための基礎を築いて参りました。これには、レクチャー、展覧会、討論会、学生向けワークショップが含まれ、これらは一般公開されています。リトアニアは、建築の領域で日本と高度な長期的協力関係を結んでいる欧州連合で唯一の国です。「EAST-EAST 5」は、カウナス建築フェスティバルに備わる国際的側面と、リトアニアと日本の二国間関係100周年を祝う構想を見事に反映させたプロジェクトといえます。
こうしたことから、KAFe2022の建築フォーラムであるこのリトアニア・日本イベント「EAST-EAST 5」において、「復興」をメインのテーマに掲げ、展覧会のテーマに「復興のレシピ」、さらに学生向けワークショップのテーマに「復興のための遊び場」と打ち出したことは、決して偶然ではありません。
このアイディアが、日本建築家協会、リトアニア建築協会ならびに同協会カウナス支部からのご支持をいただき、発展を遂げたことは、殊のほか喜ばしい限りです。仲介役には、「EAST-EAST」プロジェクトの発案者であり、2006年から2011年まで駐日リトアニア共和国特命全権大使を務めた外交官のダイニュス・カマイティス氏が務めてくださいました。資金支援は、欧州文化首都2022カウナス開催事務局、リトアニア文化評議会と、EU・ジャパンフェスト日本委員会よりご提供いただきました。イベントパートナーのカウナス工科大学からは、運営サポートをいただきました。これらの団体からのご支援と、プログラムリーダー、キュレーター、コーディネーターを務めた、リトアニア側のパウリュス・バイテクーナス氏、マルティーナス・マロザス氏、ヤウトラ・ベルノタイティェ氏、アンドリュス・ロポラス氏、ラウラ・バルトコイーテ氏、そして日本側の国広ジョージ氏、西田司氏、川勝真一氏、海法圭氏、蔵楽友美氏で成るグループ全体と、他の多数の方々のご尽力なしに、これほどの大規模なイベントを企画し、実現することできませんでした。これら全ての方々に、心から感謝いたします。
本イベントが、若い世代の建築家の協力関係に新たな弾みをもたらすとともに、日本とリトアニアの建築家の協調的な努力を通じて、私達は、再生のためのアイディアとそれに取り組む方法の探求に寄与できるものと確信しています。
建築家という職業はいつの時代も、未来に目を向けた発想と切り離せない関係にあり、また場所、クライアント、コミュニティに対する責任と密接に結びついています。大切なのは、私達が築くプロジェクトの規模というよりむしろ、社会や環境に向けて発信するメッセージやアイディアです。このことから、私達建築家にとって、明日の社会のニーズを理解し、その場所に宿る神秘的なゲニウス・ロキ(「土霊」、建築用語で「土地の雰囲気」)を守るかたちで、そうしたニーズを満たしていくことが不可欠といえます。それが失われてしまったら、その環境は主無き地と化してしまうからです。