狭い部屋がどんどん膨らむ気球になって世界を旅している<DANCE-X11に参加して>

森下真樹|ダンサー・振付家

●『コシツ2011ver.』に挑む

2008年に始動した連携プロジェクトDANCE-Xは、先進的・実験的なダンスの発信源であるタンジャン(モントリオール)、LIGアートホール(ソウル)、青山円形劇場(東京)の共同キュレーションにより、今この瞬間を疾走する振付家の作品を同時発表し、ダンス軸の共生を試みるというプロジェクトである。私はこのプロジェクトに、最も厄介である作品『コシツ』でチャレンジしようと決めた。

『コシツ』は、生命保険会社OL時代、窓口業務という束縛からエレベーターやトイレに駆込んで踊っていた・・・という体験から生まれた作品。人から閉ざされた狭い空間では、からだに固執し、無限の妄想を繰り広げていた。

この作品は2004年に誕生、本物のトイレやエレベーター、倉庫、教会など劇場スペース以外の空間も使い、試行錯誤を重ね、これまでに6カ国で上演し続けてきた。
再演するにあたり、今年に入ってこれまでの記録映像を見た。当時は、それが面白いと思ってやっていたのだろうが、今見ても面白いと思わなかった。ショックだった、が、それは当たり前のことだった。時代は変化し、私も変化する。私のやっているダンスは、その時代と私を写す鏡なのだ。
2011いまの感覚で、『コシツ2011ver.』で挑むしかなかった。

2011ver.は、固執するからだに焦点をあてるものとなった。日常的な動きを反復させたり、繰り返すうちに違う動きへスライドし全く違うものに変わっていたり、また戻ったり・・・ピョーンと全く別のからだや人格へと飛躍することもある。ひとつの動きがきっかけでいろいろ変われるからだを探るような作品、逆に言うと、自分が次に変われるきっかけを探すような作品である。人に見られている中で、どう、からだやこころを開いていけるのか。花が開いていくプロセスをどう踏んでいくか・・・作品の核になった。

振付家として、「自分がより飛べるためのしかけをつくること、そのためのプロセスをどう踏んでいくか」。ダンサーとしては、「その振付を律儀に守ったり、ぶっ壊してやろうと試行錯誤する」こと、振付家である私とダンサーである私の対立みたいなものがあった。


『コシツ2011ver.』作品ノートより

生命保険会社OL時代、緊張した心身を開放するためにトイレやエレベーターへ駆込んでいた。
そこでは、ひとりでにからだが動き、気づいたら踊っていた。エレベーターの監視カメラにはしっかりと踊る私が映っていた。

トイレやエレベーター・・・
ひとり閉ざされた狭い空間が、妄想膨らみ無限の世界へと広がっていく。

「個室」から湧き出る何か・・・
日常の動きの反復、身体への「固執」・・・

今日はみなさんの前で心身ともにどこまで開放できるでしょうか?

私の個室、身体への固執をどうぞご覧ください。


●9回の上演で得たもの

短い期間の中で9回、しかも3カ国で上演できるというのは滅多にない機会。
1回1回が、いろいろなことを試せるチャンスだと思って、見つからない答えをずっと探し続けていた。うまくいったり、いかなかったり、一喜一憂していたが、そのプロセスが貴重だったといま思う。「うまくいく」とはどういうことなのか?どうなることがいいことなのか?どうなりたいのか?自分にとってダンスは何なのか?と、深いところまで考えるきっかけをもらえたと思う。また、どれだけ真摯に自分と向き合えるか・・・柔軟でありながらも、人に何を言われてもぶれない強さ、自分を信じることが大切だと感じた。未だに答えは見つかっていないが、この先も再演を重ね、本当に大事なものを発見していくのだろう。

●試され鍛えられた近年の海外ツアー

私はここ近年、イタリア、ベルギー、フィンランド、フィリピン、タイ、マレーシア、アメリカ、そして今回の韓国、カナダとソロ作品の上演、ワークショップ、海外ダンサーに振付など、海外での活動の機会に恵まれた。海外で自分の作品がどうみられるのかを試せるのはとても刺激的。その国の文化や思想、宗教、習慣など日本との違いを体験することができる。そして、その国のアーティストの作品にそれらが反映する。海外アーティストとの交流は、より自分の作品に対する意識を高めることにもなる。また、日本で常識だと思っていたことがそうでなかったりして、驚くこともしばしば。本当に海外では何が起こるかわからない。一番の小道具であるマイクがないと言われ、急遽ジェラートマイク(ジェラートのコーン)をマイクとして使用したり、言葉が通じなかったり、食事が合わなくて体調壊したり、、、
観客の反応も様々。中でも、フィンランドでは3週間滞在し、フィンランドで活躍するダンサーとクリエーションをし、フルムーンダンスフェスティバルで私のソロと合わせて上演。上演中の観客の反応に息がつまり逃げ出しそうになったが、(プンプン怒った顔をしてみているイメージ)終演後、老夫婦がカタコトの日本語で「とてもよかった、ありがとう」と楽屋まで言いに来てくれた。同じ作品をイタリアで上演した時は、驚くほどわかりやすい反応が返ってきたり・・・本当に人の心は読めない。
国によって反応が異なる、だからこそ海外では、上演する空間に合わせて演出を変えたり、現地の言葉を使ったりと、作品をより楽しんでもらうための作戦をあらゆる角度でリサーチする。その試行錯誤が楽しい。海外での活動は試され鍛えられる。

●4ヶ国語が飛び交う楽屋

韓国のPark Young-coolをはじめダンサー3名とテクニカルスタッフ、カナダのErin Flynnをはじめダンサー2人とテクニカルスタッフ、そして日本チームが韓国語、フランス語、英語、日本語の4ヶ国語を使ってあ~でもない、こ~でもないと真剣に会話している。お互いの作品について、食べものについて、お酒についてなど、ジェスチャーを交えて会話する。3カ国ツアーすることで、それぞれのアーティストがどんな街でどんな環境で活動し、どう作品に繋がっているのか?視点や発想を覗くことができる。また、国は違っても、アーティストとして大切にしているものには共通する「何か」があることを感じた。お互いの作品についていろいろなアイディアを出し合う時間は刺激的で、いつか共演しよう!という話にまで発展し、勝手にユニット名もつくってしまうほどに盛り上がった。楽屋での時間は貴重なものだった。言葉の壁は大きいが実はたいしたことないのかもしれない。

●今後の展望

私はこのツアーで、これまでにない作品との向き合い方ができた。これまでの作品ひとつひとつを見直す良い機会となり、再演することで作品を育てていきたい気持ちが強まった。今後も、自分の世界を広げてくれる、海外での公演の機会も持てるように、積極的に海外へもアプローチしてきたい。そのためには、海外アーティストとの積極的なコミュニケーションは欠かせない。DANCE-Xで出会った劇場や人たちとのコンタクトをこの先も続けていきたいと思う。いつか次へ繋がるチャンスがあると信じている。このプロジェクトはアーティストにとって、自分と真摯に向き合える貴重なプロジェクトであると思う。この先もアーティストの力を発揮し育てる、DANCE-Xに期待する。
作品に関わってくれた仲間、たくさんのお世話になった方々、劇場へ足を運んでいただいた方々、そしてDANCE-Xに感謝いたします。今回の経験を生かし更なる飛躍ができるように日々精進いたします。

◎第19回EU・ジャパンフェスト:「青山円形劇場」プログラムページは コチラ