能動的に寄り添うコミュニケーションが生む幸福感

目澤 芙裕子|ダンスカンパニー Baobab, プロデューサー兼マネージャー

パンデミックが始まり、約2年半ぶりの海外渡航となった。幼少期からヨーロッパに住んだり、帰国後も毎年海外に旅行をしていたため、こんなに長く出国しなかったのは生まれて初めてのことだ。ほぼ同じ言語、文化、人種がいる島国日本に居続けるうちに自分の中で何か違和感を感じていた。人種や言語が多様な環境にいるとなんとなくホッとすることが多かったのは、もしかしたら幼少期のヨーロッパ生活で染み付いた潜在意識かもしれないと気づいたコロナ禍でもあった。そんな時間を経て、久しぶりに海外へ行けることにドキドキワクワクしながら空港へ向かった。

旅の目的は、European Festival Academyという機関が毎年異なる国で開催している、若手フェスティバルマネージャーのためのトレーニングキャンプ”Atelier Montreal 2022”への参加だ。今回は、カナダ・モントリオールで開催される老舗パフォーミングアートフェスティバルFestival TransAmériques(通称:FTA)に連携していたため、演目もたくさん観ることができた。2年間溜め込んでいた違和感と対峙し、消化し納得をすることで、整理した自分の引き出しの余白に新たなインプットをしていく3週間だった。

Atelierには17カ国から同年代のマネージャー30名とメンター6名が集まり、8:30の朝ごはんからスタートし22:00頃の夕食まで、とにかくビッシリ詰まった7日間のプログラムを共に闘った。FTAのディレクターやアーティストの講演や演目に参加し、サーカスの教育施設を訪れることでモントリオールのアートシーンを見ることができた。また、オンラインで参加したウクライナのフェスティバルマネージャーや、歴史的に迫害されてきたカナダの先住民フェスティバルの創設者、アフガニスタンから亡命してモントリールで暮らすアートマネージャーの話を聞くといった機会もあり、日本ではなかなか経験できないことに巡り会えたのはとても幸運であり、今後の糧にしたい。イスラエルとパキスタン両国の参加者が共にいるという状況に立ち合っていることを認識したり、当たり前だが日本にいると忘れがちな文化と世界情勢の密接な関係性を改めて考える日々だった。

 

フェスティバルの意義についてのディスカッション、資金繰りや観客育成などのトピックについて考えるセッション、文化セクターとフェスティバルの関係性についてケーススタディをするグループワークなどを経て、フェスティバルの意義を思考し続けた。具体的な話も様々出たが、メンターたちが口を揃えて私たちに伝えていたことは、「自分が価値を感じているものを信じ、それを共有する場を作ることがフェスティバルである」ということだ。お金や環境のことが先行しがちだが、真髄がブレないことが最も重要でありそのエネルギーは必ず課題を解決し、進んでいくことができるというメッセージが印象に残っている。情勢が悪くなった時文化は二の次にされがちで、コロナ禍でも例外ではなかったと記憶している。私自身不安になる時期もあったが、このメッセージは「自分を信じる=自信」が大事だと思い出させてくれて、強く背中を押された。

そして、今回の旅においてのいちばんの収穫は、30名の仲間に出会えたことだ。この時期の開催に応募してきた人たちと同じ時間、空間を共有すること自体が価値だった。皆同様にストレスやフラストレーションを持っていて、対話を始めると、どんどん思いが溢れ出てきた。どんな状況だったか、アフターコロナに向けて何に苦しんでいるのか、なぜここにいるのか、なぜフェスティバルをやっているのかなどの思いを、とにかく喋り共有しまくっていた。共感し、寄り添い合える同年代の仲間たちに出会えたという空気があっという間に出来上がった。中には英語があまり得意ではない参加者もいたが、さらっと通訳ヘルプをする参加者がいたり、ゆっくり喋る雰囲気も自然と生まれ、みんなが歩み寄る雰囲気を共通言語というツールが作り上げた。すると、言語が違えば文化も違うということを認識し、相手を受け入れどう対話し共有していくかを自然と模索し合う状況が生まれ、非常にポジティブなコミュニケーション意識がどんどん強くなっていった。自分とは違い、理解しあえないことが普通かもしれないが、そのハードルを越えてどう共存するか、考えや思いをどうシェアするのかを能動的に思考していくことが重要であり、皆がそれを実行すればその場はとても幸せな時間になるということを身を以て体感した。私にとっての心地いいコミュニケーションはこれであり、私が国際的な環境に身を置き続ける意味だと改めて思い出した。


Atelier終了後、帰国に必要なPCR検査で陽性になり帰国が延びるというアクシデントがあったが、フェスティバルチームや延泊滞在していた参加者の手厚いサポートがあり、人の優しさを強く感じた。ホテル隔離中、何かできる事はないか、不足しているものはないかなど次から次へと連絡がきて、寂しいなんて思っている暇がなかった。買い物を頼みドアの前に置いてもらうように伝えても、ドアを開けると、みんな口を揃えて「私もこの前なったばっかりで怖くないから大丈夫」と言って、距離をとって少し立ち話をしていってくれた。「大丈夫、1人じゃないよ!」が決まり文句で、この魔法の言葉にはとてもとても助けられた。この2年半、日本ではあまり体験しなかった事象に感動しながらも、本来これが人間関係の形なんじゃないかとジワジワ思い出させてくれた。

FTAの鑑賞演目の中で好きだった作品No.1とNo.2が、どちらも瑞々しく人間模様を描いた作品だったり、きっと私は純粋でコアな人間関係を渇望していたのかもしれない。終始、人の温かさ=Heartwarmingを強く感じる旅だった。日本にいるときにも、こんな時間や空間、コミュニティがたくさん生み出され、人々が純粋に愛情を大事にし、表現できるようになるといいのにと強く願い、それを実現していく活動をしたい。