資本主義瓦解の最中に生命の味方となり得る存在としてのキノコ

ヨーキン・アスプル|ディレクター

ゲッチョ・フォトの特徴は、公共空間が均一化や民営化に直面するなか、集いの場、相互認識の場、さらに実験、遊び、祝祭のためのグラウンドとしての公共空間を、物理的とオンラインの両方により急進的に擁護することにあります。このことから、本フェスティバルのプログラムのほとんどが屋外のインスタレーション作品で構成されており、それが一方で画像と環境の結びつきを際立たせ、他方で一般市民とのより水平的かつ参加型の関係を生み出しています。

ゲッチョ・フォト国際写真フェスティバルは、16年間にわたりスペイン、バスク州のゲッチョを舞台に開催されています。本フェスティバルでは、世界各国の視覚芸術家から寄せられた様々な企画を本都市に一堂に集め、毎年提起されたテーマをめぐっての現代的対話の場を設けています。フェスティバルは、内省の場の創出と集団的議論の確立を目指し、現代の課題に取り組むプラットフォームとして構想されています。

 

ゲッチョ・フォトは、その横断的アプローチから、視覚文化の発展の場としてのインターネットの推進を通じて拡充を図っています。こうした理由から、本フェスティバルでは、ライブ自動画像処理、双方向型ウェブサイト、バーチャル・リアリティ、プレイリスト、アプリ、ミーム、WhatsAppグループ、映像チャンネルをはじめとする様々なデジタル企画といった、多様なアプローチを含む具体的なオンラインプログラムを実施しています。 

Takashi Homma and curator Jon Uriarte during the Special Visit with audiences at Getxophoto 2022. ©Liset Chávez Getxophoto 2022

創設から16年のあいだ、これまでに250を超える世界的な作家が参加し、その多くが評論家から高い評価を獲得しています。本フェスティバルは、ほとんどが無料で、集いの場、そして地域的および国際的なプラットフォームとして構成され、文化機関と作家と来場者が経験や知識を交換するネットワークを創出して参りました。 

 

今回の開催では、本フェスティバルのキュレーターを務めるヨン・ウリアルテ氏(フォトグラファーズ・ギャラリーのデジタル・キュレーター)の指揮のもと、「To Imagine(想像する)」というタイトルを掲げ、危機の時代における異なるシナリオや、この目的のために写真がもたらす可能性について考える上での批判的想像力が担う役割を模索しました。スイス、ボリビア、メキシコ、英国、ブラジル、コロンビア、スペイン、日本、トルコから集まった26名のアーティストが、展覧会での作品発表や、市街地(そのほとんどが野外)でのインスタレーション作品の展示を行いました。

Detail of Takashi Homma’s installation at Getxophoto 2022. ©Liset Chávez Getxophoto 2022

日本人作家の参加に関しては、ゲッチョ・フォトは、偉大な現代写真家のひとりであるホンマタカシ氏ご本人と同氏のプロジェクト『その森の子供 mushrooms from the forest』を迎える光栄に恵まれました。ホンマタカシ氏は、この作品シリーズを制作するため、原子力発電所事故から6ヶ月が経った2011年秋に福島の森林を訪れ、放射性物質を最も素早く吸収する特性を持った生物のひとつであるキノコおよび菌類にとりわけ注目しました。広範におよぶこの作品群には、現在のウクライナで起きた原発事故により拡散された放射能雲の影響のため当局によりキノコの摂取制限が敷かれたチョルノービリ、スウェーデン、フィンランドの森林で、長年が経過した後に撮影された写真作品も含まれています。同日本人アーティストは、資本主義が瓦解しつつある真っ只中に、短期的、長期的の両方の観点から、生命の味方となり得る存在としてのキノコについて熟考してみるよう提言しているのです。

 

本フェスティバルの主なアイデンティティの象徴のひとつに、出会い、愉しみ、内省の場としての公共空間を断固として擁護することが挙げられます。こうした背景から、ホンマタカシ氏の作品シリーズは、アルゴルタの旧ガソリンスタンドというゲッチョ・フォトの会場のなかでも極めて特徴的なロケーションのひとつで披露されました。本インスタレーション作品は、ガソリンスタンドのメインの壁面に配された4点の大判プリント写真作品と、廃墟化したこの空間の下生えに「隠された」24点の小さな作品で構成されており、それらがこの顕著な会場との対話を成立させています。

 

その場所固有の特徴と、ゲッチョの市街地中心部の程近くといったインスタレーション作品の戦略的立地条件も相俟って、本作品は今回の開催において最も絶賛を浴びた作品のひとつとなりました。私達の推定では、少なくとも6000名もの人々がこの旧ガソリンスタンドを訪れ、この特別な展示を堪能しました。一般市民はもちろんのこと、メディアからも多大な反響がありました。そのひとつの例として、バスク・テレビが、バスク圏において最も人気の高い週末のニュース番組で報じるために訪れました。

 

本フェスティバルの今後についてですが、私達は2023年6月に向けて次回の開催の準備を現在進めているところです。ゲッチョ・フォトでは、この先数年間にわたり、展覧会ならびにインスタレーション作品、世界各国の作家に門戸を開く国際公募、ゲッチョを訪れ、本フェスティバルを欧州のフェスティバルサーキットに位置づける専門家との対話、文化的エコシステムの強化を促す文化エージェントおよび機関との協働、さらに一般市民にとって芸術的企画をより身近なものとなる参加型プログラムの一環で行われる多彩なアクティビティを通じて、引き続き公共空間を拠点に活動して参ります。

 

2023年にお会いできることを楽しみにしています!