高田みどりが観客を席捲

ジルヴィナス・シルカ|国際芸術クリエイター協会フレイマス 会長

8,000キロ余り離れた日本とリトアニア。文化的に全く異なる二国を結ぶものとは何か?その答えは、私達のみならず、カウナスのアウドラ・フェスティバルの来場者にも驚きを与えました。

本フェスティバルの企画当初、私達はリトアニアと日本の音楽的接点を探り続けました。長いリサーチで得た最大の発見は、ある民族音楽ジャンルによって両国が繋がっていることでした。全世界でこの二国だけに、古代の多声合唱法(リトアニア語で「スタルティネス」)が存在していたのです。これは歌唱の概念の一種で、ひとりが一節を歌い始め、他の唄者が各々一定の時間を置いて同じ節を歌うというものです。それが不思議なハーモニーと反復を生み出し、ときに聴衆に強いトランス効果をもたらします。

私達はこの発見を受け、美しく独特な何か、過去の文化的類似点の基盤を有する遥か離れた二国の文化的懸け橋となる何かを創造できることに気付きました。

 

常に最高の成果を目指し励む私達は、両国の一流演奏家を見つけたいと望みました。幸運にも、長く探さず済みました。

Percussionist Midori Takada ©︎Martynas Plepys

高田みどり氏は、日本の作曲家でありパーカッショニストで、これまでに6枚のアルバムを発表し、崇敬の的となっています。ニューヨークからパリまで、最大級の舞台での演奏経験をお持ちで、私達が見つけ得る最高の解決案だと確信しました。アーティストの所属事務所との長い交渉の末、高田みどり氏がリトアニアで世界初演を披露するという合意に至りました。アンサンブルGaudė(ガウデ)とDevyniaragė(デヴィニアラゲ)と協働し、私達は独特で特別な作品の創造に挑み、数ヶ月後、『沈黙の鳥-The Silent Birds』が誕生したのです。本作品には複数の意味があります。ひとつは、戦争によって鳥の声が憎悪で掻き消され、平和を象徴する鳥の歌声が聴けなくなった世界を描いていることで、もうひとつ重要なのが、本作品における芸術的手法の一部で、そこには意味を帯びた言葉はなく、鳥の音色が聴こえるというものです。

 

本作品の準備は、緊張感が漂い、かなり複雑でした。高田みどり氏が公演の2週間前にリトアニア入りし、多忙なリハーサルスケジュールに追われる一方、非常に刺激的でした。みどり氏とアンサンブルを眺めながら、言葉の壁が崩れ去るように感じました。みどり氏のプロフェッショナルな教えは、リハーサル中のアーティストに加え、音響作家や映像作家にも向けられ、それが完璧な音響を生み出し、視覚的要素を発揮させる助けとなりました。みどり氏に本作品の雰囲気をより掴んでいただくため、アンサンブル奏者とともに、カウナスで行われた伝統的な聖ヨハネの祭典を訪れました。これがみどり氏が我が国の文化や風習を知る上で役立ちました。また国立チュルニョーニス美術館、杉原千畝記念館などの名所を巡り、リトアニアの伝統料理を味わい、大いに感銘を受けていました。

 

全滞在期間の予定は、数本のインタビューや多様なメディアからの問い合わせに惜しみなく割かれました。みどり氏率いる『沈黙の鳥』プロジェクトは、複数の地元報道機関のほか、国営テレビ局の朝の生番組にも招かれました。彼女はインタビューを受け、来たるコンサートからの一曲を披露しました。これはリトアニアの古の紀元前文化において盛大に祝され、重要な日とされる聖ヨハネ祭を特集する特別番組で、この出演が作品『沈黙の鳥』の思想とアーティストとしての高田みどり氏をご紹介する極めて大きな節目となったと誇りを持って断言できます。

 

私達主催者は、えも言われぬ思いで高田みどり氏とDevyniaragėとGaudėのアンサンブルのリハーサルを見守りました。リハーサルは2週間しかなく、かなり迅速に公演の準備を進める必要があったため、私達は舞台上の出演者と同様に緊張していたのでしょう。数週間が経ち、私達は満席のイベント会場に座っていました。本公演は、この種としてはおそらくリトアニア最大の舞台となりました。舞台裏では興奮が走りましたが、高田みどり氏からの激励の言葉のおかげで、すべてが順風満帆に進みました。私達の目には、これまでに観た最も壮観な公演と映りました。

Ethnic/folk music collective GAUDE ©︎Martynas Plepys

終演後、会場全体からスタンディングオーベーションが送られ、観客の顔には多くの涙が見られました。みどり氏のエネルギーは圧倒的でした。今回がおそらく最初で最後の『沈黙の鳥』の公演となることから、その様々な感情や記憶は、その会場の客席にいた人々の心のなかでのみ息づくことでしょう。高田みどり氏、GaudėとDevyniaragėによる共演は、アウドラ・フェスティバル全体に精彩を放ち、神秘的な何かを創造する上で、距離や言語の壁は問題ではないことをひたすら明確にしたのです。

 

今後の協働ですが、私達は、東アジアのなかの日本の文化や芸術家について知識を深めたいと望んでいます。これがほんの始まりであると願っています。高田みどり氏の初演プロジェクトの企画と、その全プロセスの実行の両方を経験し、私達の文化は非常に異なる一方、多数の類似点を持ち併せていると実感しました。私達は皆、勤勉で、自国の文化や人々に対する熱意と誇りに満ちています。それが私達を前進させる主な原動力となっています。そしてもちろん建設的でもあります。こうした類似点がまだ数多く存在するものと確信しています。さらなる協働の機会を持つことで、私達はより多くの類似点を発見することでしょう。たとえ8,000キロ離れていても、そんな遥か遠い国々を互いにより密接にするアーティストが、必ずもっと多数いるはずです。文化によって誰もが繋がることは、周知の事実なのです。

bow after concert ©︎Martynas Plepys

来年は、6月29日から7月2日の会期でアウドラ・フェスティバルの開催を予定しています。本フェスティバルでは、初年度、音楽や音楽関連のプロジェクトを用いて、数々の非一般的な脱工業化建築の空間の再生利用を果たしました。ライトアートのインスタレーション作品も莫大な存在感を占めました。実現が叶えば、日本を代表するコンセプチュアルなライトアート作家と協働し、この要素を深化し続けたいと考えています。現在、日本人プロジェクトNONOTAK(ノノタック)との交渉が進行中です。タカミ・ナカモトとノエミ・シファーのふたりのアーティストユニットNONOTAKは、現代アートにおいてロボット工学や斬新なテクノロジーを駆使したライトアートを探究しています。ちょうど10年前、このデュオが私達主催のインサニタス・アート・フェスティバルのためにカウナスを訪れた経緯もあり、非常に象徴的といえます。長年を経て、今年ふたりと再会する機会が出来ることを嬉しく思います。今回異なるのは、彼らがこの分野における大物アーティストとなり、より大規模なフェスティバルでの参加となることです。